概要
研究チームは、ケージ型分子を並べた結晶を用いる構造決定法を、これまで扱うことが難しかった低極性の小さな分子にまで広げることに成功しました。パラジウムを含む中空のケージに「モジュレーター」としてフェナントレンを加えることで、標的分子とフェナントレンを同時に取り込み、ケージ内部に残る余分な空間を埋めることができます。この手法により、セスキテルペノイド化合物30種のうち24種でX線結晶構造が得られました。フェナントレンを加えない場合は、30種いずれも構造決定に至りませんでした。得られた構造のうち11種は新規で、液体炭化水素ロンギフォレンもその一つです。キラルなケージを用いることで、一部の化合物の絶対配置も決定しました。ホストを化学修飾する必要がないため、ほかのモジュレーターを探索すれば、別の化合物群にも本手法を応用できます。
本文
第二世代結晶スポンジ(2G-CS)法にフェナントレンを共ゲストとして加えることで、主にセスキテルペノイドからなる低極性の小さなC15分子30種のうち、24種のX線結晶構造を決定することに成功しました。標準条件では、30種のいずれからもゲストを含む結晶は得られませんでした。決定した24種のうち11種はこれまで単結晶構造の報告がない化合物で、液体炭化水素であるロンギフォレンも含まれます。さらに、キラルなケージを用いて5種の化合物の絶対配置を決定しました。
2G-CS法は、分子そのものを結晶化させることなく、その構造を決定できる手法です。対象分子をパラジウムを含む中空のケージに取り込ませ、そのケージが集まって結晶を形成します。しかし、分子量200~300の低極性分子では、この手法はしばしばうまくいきませんでした。著者らは、こうした小さな分子にとってケージの空孔が大きすぎることが原因だと考えました。分子が空孔内で動きすぎ、ホストとの相互作用も弱くなるとみられます。このような小さなセスキテルペノイドは、天然物研究や創薬において重要な化合物群です。
そこで研究チームは「サイズ補償戦略」を採用しました。平面状の芳香族分子である「モジュレーター」を標的分子とともにケージに包接させ、この2分子で空孔を埋めるという考え方です。モジュレーターは単独で包接されることを想定したものではなく、三元錯体は2種類のゲストがそろったときに優先的に形成されます。検討した6種のモジュレーターのうち、(+)-ロンギフォレンの包接率が最も高かったのはフェナントレンで、NMRで見積もるとケージの約40%がロンギフォレンを取り込んでいました。研究チームはその後、モジュレーターをさらに最適化することなく、同じフェナントレンを用いる戦略を残る29種の化合物に適用しました。
その結果、フェナントレンを用いることで30種中24種(80%)の構造決定に成功しました。このうち1種はキラルなケージを用いて解析したものです。成功例は炭化水素、大環状化合物、縮環化合物、直鎖状分子と多岐にわたり、モジュレーターの配置はゲストによって異なっていました。決定した24種のうち11種はこれまで単結晶構造の報告がない化合物で、1920年に初めて単離された液体であるロンギフォレンもここに含まれます。標準のケージを用いた場合、錯体はほぼ同一の条件で結晶化し、格子定数も互いによく似ていました。また、ゲストの電子密度は分子構造を判別するのに十分な明瞭さで得られました。キラルなケージを用いた解析では、選んだ5種の化合物(うち4種は炭化水素の天然物)の絶対配置を決定し、(+)-ロンギフォレンを(1R,2S,7S,9S)と帰属しました。4種の炭化水素についての結果は、いずれも既報の帰属と一致しました。これら4種の炭化水素を、化学修飾していない元の形のまま結晶構造解析したのは今回が初めてです。
モジュレーターを用いるこの手法により、2G-CS法による構造決定の対象は、低極性の小さなセスキテルペノイドにまで広がりました。しかも「ホストを化学修飾する必要がない」うえ、操作の簡便さ、微量試料での分析、迅速な解析という本手法の利点も損なわれていません。モジュレーターが取り込まれたかどうかは結晶化の前にNMRで確認できることから、ほかのモジュレーターを探索することで、同じホストを別の種類の分析対象にも応用できます。
論文情報
著者:Wei He, Luc Soliman, Hiroki Takezawa, Makoto Fujita
掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:Expanding the Chemical Space of Analytes in the 2G Crystalline Sponge Method: Size‐Compensation Strategy for the Structural Analysis of Low‐Polarity Small Molecules
DOI: 10.1002/anie.4748505
研究サポート
本研究は、以下の研究資金による支援を受けて行われました。
日本医療研究開発機構(AMED)AIMGAIN
JP24zf0227103
JSPS科研費 基盤研究(S)
JP24H00054
JSPS科研費 基盤研究(B)
JP23H01783
JSPS科研費 若手研究
JP26K17870
Journal
Angewandte Chemie International Edition
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Expanding the Chemical Space of Analytes in the 2G Crystalline Sponge Method: Size‐Compensation Strategy for the Structural Analysis of Low‐Polarity Small Molecules
Article Publication Date
20-Oct-2026