東北大学電気通信研究所の塩入諭教授の研究グループは,人間の視覚系が無意識に回りの環境を学習し脳内にモデルをつくることで、直接見ることができない頭の後ろの情報も処理をしていることを明らかにしました。
生活環境では、自分の部屋や毎日通る道など、何度も眼にするものがあり、その環境では容易にまた無意識的に行動することができます。読みたい本があれば、本棚に手を伸ばしたり、来客時には部屋の入り口を眺めて待ったりしています。あまり意識することなく、なにがどこにあるかわかっていて回りを見ているようです。プロのサッカー選手でなくても、あたかも後ろに眼があるような行動をとることもあります。
このような能力は視覚と行動が直結する脳処理の重要な機能ですが、それがどのように獲得されるかは未解決の問題です。研究グループは、文字がランダムに配置し、その中からターゲット文字を探すという課題(視覚探索)を被験者に与え、繰り返しが探索時間を短くする効果(文脈手掛かり効果)を調べることで、この問題に取り組みました。文脈手掛かり効果は、画像中の文字配置に対して無意識に獲得できる学習効果で、シーンの記憶に関連すると考えられています。本研究では、眼や頭を動かすことなく見ることができない周囲を取り巻く文字配置全体にも、文脈手掛かり効果が生じることを示しました。これは、正面にあるものを見ることで、後ろにあるターゲットを見つけることができることを意味しています。しかもこのことに、被験者は全く気付かないことから、無意識の学習(潜在学習)によって、周囲の環境を理解しているといえます。同時にみることができる視野内の情報だけでなく、被験者を取り巻く360度の視野にあるものの配置を覚え、脳内に周囲の環境に対するモデルとして無意識に構築しているといえます。それによって、正面を見ただけで、後ろに何があるかわかることになり、後ろも「見える」視覚処理が実現しているといえます。
今回発表の論文は2018年5月8日10時(英国時間)、オープンアクセス科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
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Journal
Scientific Reports