News Release

世界初!-70℃の高温超伝導体の結晶構造を解明

-室温超伝導体実現に大きな一歩-

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

Figure 1

image: (Left) Development of the superconducting transition temperature Tc. Hydrogen sulfide's highest Tc is H2S (150 GPa), and this is 30 K higher than what was previously the highest Tc superconductor â€� Cuprate, Hg-Ba2Ca2Cu3Oy - and the lowest temperature ever recorded on the Earth's surface to date (184 K/-93â„�). view more 

Credit: Osaka University

大阪大学大学院基礎工学研究科附属極限科学センターの榮永茉利特任助教、坂田雅文特任講師、石河孝洋特任助教、清水克哉教授、Max Planck化学研究所のMikhail Eremets博士、高輝度光科学研究センターの大石泰生副主席研究員の研究グループは、大型放射光施設SPring-8において、ダイヤモンドアンビルセル※3を用いた超高圧・低温下での電気抵抗測定と高強度の放射光マイクロX線回折実験※4を組み合わせた複合実験によって、150万気圧で出現する硫化水素の203 K(マイナス70℃)を超える高温超伝導相の結晶構造を明らかにしました。

超伝導とは、ある温度まで物質を冷却すると電気抵抗がゼロになる現象です。例えば、送電線に超伝導体を使用すればエネルギー損失なしに電気を運ぶことができ、エネルギー問題解決が期待されます。他にも、医療用MRI装置等ですでに実用化されている、極めて重要な物理現象です。しかし、物質が超伝導体となる温度(超伝導転移温度)は非常に低く、冷却に高いコストがかかるため実用化や普及を妨げています。

昨年、これまでの超伝導転移温度の最高記録を大幅に更新する高圧力下の硫化水素が発見され大変な注目を集めていますが(図1左)、その超伝導の発現機構の解明に重要な情報である結晶構造については不明でした。本研究では高圧力下で電気抵抗とX線回折の同時測定を行い、世界で初めて硫化水素の高温超伝導相の結晶構造を明らかにしました(図1右)。

本研究成果は、硫化水素で発現した高い超伝導転移温度の発現機構の解明へ繋がるだけでなく、実用可能な室温超伝導体の開発へ大いに貢献するものです。

研究の背景

超伝導体 (電気抵抗がゼロ) となった物質を送電線として使用すれば、エネルギー損失なしに電気を運ぶことができるため、エネルギー問題を解決する極めて重要な物理現象として注目されています。しかし、超伝導が発現する温度(超伝導転移温度)は非常に低く、冷却に必要な寒剤である液体ヘリウムは高騰化の一途をたどっています。そのため、超伝導転移温度を室温まで近づける、「室温超伝導体の実現」は人類に大きな飛躍をもたらす発明であり、科学者の大きな目標のひとつです。

大気圧では超伝導を示さない物質でも、圧力をかけることで超伝導が現れることが知られており、その中でも、水素は400万気圧を超える超高圧下で室温超伝導体となることが理論的に予測されていました。これを証明するには400万気圧という超高圧下での極めて難しい測定が必要となります。しかし、水素を多く含む物質 (水素化物) であればより低い圧力で高い超伝導転移温度が発現することが期待されていました。

2015年にEremets博士らの研究チームは、硫化水素(H2S)が150万気圧で絶対温度203度(マイナス70℃)もの高温で超伝導体となることを発見しました。この高温超伝導の機構を解明し、更に高い超伝導転移温度を示す物質を探索していくためには、高圧力下の硫黄水素化物の結晶構造の情報は必要不可欠です。Eremets博士らの報告の後、理論計算を行ういくつかのグループによって高圧力下の結晶構造が理論的に提案され、その高い超伝導転移温度が立方晶構造のH3Sで実現している金属水素に起因することが示唆されました。現在、世界中でこの超伝導の再現実験や結晶構造の研究が行われていますが、超高圧発生などの実験的な難しさのために研究が進んでいませんでした。

研究手法と成果

本研究の研究対象である硫化水素は軽元素※5で構成されるうえ、超高圧発生のために試料サイズが直径30 m以下となり極めて小さいため、通常の実験室X線発生装置での測定ができません。そのため、本研究グループは高強度・高エネルギーかつ、マイクロオーダーの径の小さなX線が使用できる大型放射光施設SPring-8の高圧専用ビームラインBL10XUに着目し、低温・高圧下のX線回折実験とともに電気抵抗測定を行い、その高温超伝導相の結晶構造を調べました。その結果、硫化水素H2S分子が高圧下でH3Sに構造変化し、このH3Sが超伝導を示していることを世界で初めて明らかにしました。また、同時に計測した超伝導転移温度の圧力変化から、超伝導相には2つの構造があり、その2つは理論計算で予測されていた六方晶構造のH3Sと立方晶構造のH3Sであることがわかりました。

本研究成果は、硫化水素の高い超伝導転移の解明にとどまらず、室温超伝導への開発指針を示すものであり、さらには高圧力下に広がる物質開発の推進にも新たな知見を与えるものです。

今後の展開

本研究によって室温超伝導が現実味を帯びてきました。今後は硫化水素の周辺物質(硫化水素に似た物質)の研究が盛んになると考えられます。榮永特任助教らの研究グループは、超高圧と低温に構造解析を加えた実験および理論計算技術を駆使して、室温超伝導体の実現を目指した先導的な研究を推進していきます。

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用語解説

※1 超伝導
物質をある温度まで冷却したときに電気抵抗がゼロとなり、外部からの磁力線が物質内部から完全に排除される現象。1911年に物理学者オンネスによって発見された。超伝導現象が現れる温度は超伝導転移温度と呼ばれており、これを室温まで上昇させて実用化させることができれば、環境問題やエネルギー問題が解決されると考えられている。この超伝導状態が出現する温度-圧力領域を「超伝導相」と呼ぶ。

※2  SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行う。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われる。

※3 ダイヤモンドアンビルセル
ダイヤモンドを用いた小型の高圧発生装置。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられる。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に電極や試料を入れて対向した2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生する。ダイヤモンドの先端のサイズを小さくすれば200万気圧を超える圧力発生が可能だが、その分、サイズの小さい試料が必要となるため様々な測定が困難となる。

※4 X線回折実験
規則的に配列した物質中の原子に電磁波(X線)を入射すると、各原子が構成する面の電子からの散乱波が干渉して特定の方向にだけ強い回折波が現れる。これをX線回折現象といい、これにより物質内の原子の配列を調べることができる。しかし、軽元素で構成される試料は電子数が少ないために回折波の散乱強度が極端に低下する。さらに、超高圧発生のためには試料サイズが小さくある必要があり、高強度・高エネルギーの放射光X線マイクロビームの使用できるSPring-8での実験が必須である。

※5 軽元素
原子量の小さい元素のこと。本研究の試料である硫化水素は原子番号1番の水素と16番の硫黄で構成されており、電子数が大変少ない。


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