【ポイント】
・歯を支える歯根膜に存在するマラッセ上皮細胞をエピジェネティクス薬剤で処理することで、幹細胞に近い特性を持つ幹細胞様前駆細胞を作製することに成功した。
・作製した幹細胞様前駆細胞を歯周組織の構成細胞である血管内皮細胞や間葉系幹細胞、骨芽細胞へ直接分化誘導することに成功した。
【背景】
近年、医療の分野では幹細胞を応用した臓器再生に関する研究が進められています。歯科再生医療においては、主に歯髄幹細胞と歯根膜幹細胞に焦点を置いた研究が進められています。歯髄幹細胞の採取は比較的容易であるものの、歯髄全体における歯髄幹細胞の割合は数%と低く、再生医療への応用効率という点において課題があります。また、歯根膜幹細胞を採取することは臨床的に容易で無いことから、人工的に作製された幹細胞を応用する方法が望まれます。
本研究グループでは、遺伝子導入を行わずに遺伝子の発現変化を誘導するエピジェネティクス修飾技術と、完全な幹細胞では無い状態から目的の細胞へ直接分化誘導するダイレクトリプログラミング法を組み合わせることで、歯根膜に存在するマラッセ上皮細胞から幹細胞に近い特性を持つ幹細胞様前駆細胞を作製し、歯周組織の構成細胞である血管内皮細胞や、間葉系幹細胞、骨芽細胞へ分化誘導することを検証しました。
【方法と結果】
単離した歯根膜のマラッセ上皮細胞を、エピジェネティクス薬剤の5-Azacytidineとバルプロ酸で1週間処理することで、幹細胞に近い幹細胞様前駆細胞へ誘導しました。解析の結果、作製した幹細胞様前駆細胞は完全な幹細胞ではないものの、幹細胞のiPS細胞と同程度の幹細胞マーカーのタンパク発現を認めました(図1)。 さらに、この幹細胞様前駆細胞を血管内皮細胞や間葉系幹細胞、骨芽細胞へそれぞれ分化誘導しました。解析の結果、それぞれに特異的なマーカーの発現を認めました(図2, 3)。
【今後の展望】
本研究で得られた成果によって、将来的には、歯周病で喪失した歯槽骨を再生させるための新たな歯周組織再生技術を開発できる可能性があります。今回応用したエピジェネティクス薬剤には腫瘍抑制効果があることから発癌性が無く、安全に応用することが可能であり、今後の更なる研究知見が望まれます。
【本研究でご支援いただいた研究助成】
本研究の一部は、日本学術振興会の科学研究費助成事業若手研究(研究課題番号; 18K17091)の助成により行われました。
【プレス情報】
掲載誌名; Scientific Reports
論文タイトル; Direct reprogramming of epithelial cell rests of malassez into mesenchymal-like cells by epigenetic agents
論文著者; Koki Yoshida, Osamu Uehara, Yoshihito Kurashige, Durga Paudel, Aya Onishi, Puja Neopane, Daichi Hiraki, Tetsuro Morikawa, Fumiya Harada, Rie Takai, Jun Sato, Masato Saitoh, Yoshihiro Abiko*. (*; Corresponding author)
論文のオンライン掲載日と報道解禁日(Embargo); 2021年1月20日午前10時(英国時間)
DOI; 10.1038/s41598-020-79426-4
【お問い合わせ先】
[研究に関すること]
北海道医療大学歯学部生体機能・病態学系臨床口腔病理学分野 教授 安彦 善裕
TEL : 0133-23-1211(代表)0133-23-1966(直通) FAX : 0133-23-1390
e-mail: yoshi-ab@hoku-iryo-u.ac.jp
[広報担当]
北海道医療大学国際交流推進センター
TEL : 0133-23-1211(代表)
e-mail: globalnetworkingoffice@hoku-iryo-u.ac.jp
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Journal
Scientific Reports