News Release

歯周病原細菌の感染が骨格筋の代謝異常を引き起こす

歯周病がサルコペニアの病態悪化に寄与している可能性を示唆

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Summary of the study

image: Anti-Porphyromonas gingivalis antibody titers positively correlated with intramuscular adipose tissue content in metabolic syndrome patients. Administration of P. gingivalis impaired glucose tolerance and insulin resistance, altered the gut microbiome. Skeletal muscle of recipients of P. gingivalis exhibited fat infiltration and lower glucose uptake with higher inflammatory mediators and lower insulin signaling. view more 

Credit: Department of Periodontology,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病分野の片桐さやか講師、渡辺数基 日本学術振興会特別研究員(DC2)、岩田隆紀教授と、佐賀大学医学部附属病院肝疾患センター高橋宏和特任教授の研究グループは、東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター分子遺伝学研究部の廣田朝光講師、東京医科歯科大学教養部生物学教室の服部淳彦教授、同大学医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、同大学難治疾患研究所エピジェネティクス分野の松沢歩助教との共同研究で、歯周病原細菌の感染が腸内細菌叢の変化を伴い骨格筋の炎症関連遺伝子群を上昇させ、脂肪化を亢進、インスリンシグナルの低下とともに糖の取り込みを阻害することを見出しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌The FASEB Journalに、2020年11月16日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】  

近年歯周病は他の様々な全身疾患(糖尿病、肥満等)の増悪因子となることが示されてきました。歯周病は糖代謝において重要な役割を果たす臓器である肝臓の脂肪化を増悪させる因子の一つでもあることが明らかとなってきましたが、他の糖代謝に関わる臓器との関連については報告がほとんどありませんでした。  骨格筋は体重の約40%を占める最大の臓器であり、運動や姿勢保持のみならず全身の糖代謝調節においても基幹的役割を担っています。歯周病が糖尿病の病態を悪化させる機序の一つにインスリン抵抗性の惹起が挙げられますが、インスリン依存的に糖の取り込み・代謝を行う組織である骨格筋に注目した報告は未だ無く、歯周病の糖尿病の病態悪化において骨格筋との臓器特異的な関連性が予想されるものの、現状ではそのメカニズムは解明されていませんでした。

【研究成果の概要】  

本研究グループは、骨格筋組織の脂肪化に着目し、ヒト臍部CT画像に描出された腰筋群をCT値解析し、骨格筋の脂肪化マーカーを算出、歯周病原細菌の血清抗体価との関連を調査しました。その結果脂肪化マーカーと歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis (Pg)の血清抗体価に有意な相関がみられることがわかりました。そこで、Pgの感染による骨格筋の影響を調査するためにPg嚥下感染モデルマウスを用いて実験を行いました。脂肪化への影響を調査するためにOil red o染色を行なったところ、Pgの投与により遅筋であるヒラメ筋では有意に脂肪化が亢進していることがわかりました。  また遺伝子発現をqPCR法※3で検証したところ、Pgの投与によりTnfaやIl6などの炎症関連遺伝子が上昇し、またマイクロアレイ解析※4にて炎症関連遺伝子群が上昇を認めました。  次に、研究グループは糖の取り込みを評価するために、グルコースと同様に細胞内へ取り込まれますが、リン酸化された後次の酵素反応へ進まない2−デオキシグルコース(以下2DG)を使用することにより、筋組織に取り込まれた糖を定量する系を立ち上げました。マウスに2DGを投与するとPg投与群においてはヒラメ筋における糖の取り込みが有意に阻害されていることが確認されました。また、ウエスタンブロッティング法※5にてインスリンシグナルの指標となるAktのリン酸化を評価したところ、Pg投与群ではリン酸化の阻害が確認され、インスリンシグナルが低下していることを確認しました。また、次世代シークエンサー※6を用いて腸内細菌叢の細菌種の同定、細菌種間の相関関係を解析した結果、Pgの投与はTricibacter属を減少させ、細菌叢を変化させていることがわかりました。また細菌同士の相関関係を示したネットワーク構造も、ひとつのネットワークに関わる細菌種が減少していることがわかりました。

【研究成果の意義】

 メタボリックシンドローム症候群の患者では骨格筋脂肪化マーカーと、Pgの血清抗体価が有意に相関していることを明らかにしました。またPgを投与したマウスでは腸内細菌叢の変化を伴い骨格筋の炎症関連遺伝子群が上昇、脂肪化の亢進、インスリンシグナルの低下とともに糖の取り込みが阻害されていることを見出しました。この研究の成果は、Pgの感染が骨格筋の代謝異常を引き起こし、メタボリックシンドロームのリスクファクターとなっている可能性、およびサルコペニアへとつながる可能性を示すものです。サルコペニアは筋肉量の低下を主体とし、機能的低下をも含む概念ですが、動作の俊敏性が失われ転倒しやすくなる身体的問題に直結します。本研究により歯周病のさらなる危険性が注意喚起され、健康寿命の延伸へとつながることが期待されます。 

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【用語解説】

※1 インスリンシグナル   インスリンの刺激によって起こる細胞内のシグナル伝達。

※2 サルコペニア   老化によって起こる筋肉量の減少。

※3 qPCR法   酵素を利用して、目的の遺伝子を増幅させ、遺伝子発現を定量する方法。

※4 マイクロアレイ解析   細胞内にある数万個の遺伝子発現量を一度に解析できる手法。

※5 ウエスタンブロッティング法   電気泳動によって分離したタンパク質を膜に転写し、抗体を用いて特定のタンパク質を検出する方法。

※6 次世代シークエンサー   遺伝子配列を高速で読み出せる装置。


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