News Release

ニューロンの活動に耳を澄ませば

超微細コアキシャル電極によるニューロン計測の高品質化

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

コアキシャル神経電極

image: ニューロンの局所差動計測(上) 開発した神経電極(下) view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系河野剛士准教授とエレクトロニクス先端融合研究所の研究チームは、半導体シリコンの結晶成長を用いて直径が10 µm以下の超微細な同軸構造神経電極(コアキシャル神経電極)を開発しました。コアキシャル神経電極は、同軸構造の針状電極であり、先端部分の2つの電極により従来の電極技術では困難であった非常に近い距離での差動計測を可能とします。加えて、その微細な電極構造により従来の神経電極よりも組織損傷を低減できます。これらの神経電極デバイスの特徴は、従来の電極技術では実現しなかった質の高いニューロン信号の計測を可能とし、電気生理学の分野における新しい計測ツールとして期待できます。

<詳細>

ニューロン活動の電気的信号を計測する手法として微細な電極を脳組織に刺入する神経電極が用いられています。神経電極は、電気生理学的な脳計測において非常に重要な技術であり、高い空間分解能における計測により、ニューロン活動を詳細に把握することが可能です。例えば、脳信号により義手や義足などを動かすブレイン・マシン・インターフェース(Brain-machine interface, BMI)技術では、患者の脳へ電極を埋め込み、高い空間分解でニューロン信号を計測する技術が非常に重要です。また、高い信号対雑音比による信号計測も重要となります。ニューロン活動の信号は数十µV(1Vの10万分の1)オーダーと非常に小さく、組織内の空間中を伝搬するノイズによって信号の質が低下してしまいます。このように神経電極には、高い空間分解能、かつノイズに強い特性が求められます。更に脳組織に損傷を与えない構造として、10 µm以下の電極形状が必要とされています。

そこで、研究チームはこれらの神経電極の課題に対し、半導体シリコンの結晶成長技術であるVLS(Vapor-Liquid-Solid)法を用いてこれまでに実現されていない直径が10 µm以下の同軸構造の電極を高密度に形成した神経電極デバイスを開発しました。今回作製した電極デバイスを用いて、間隔が6 µmの2つの電極により局所的にニューロン活動を差動計測することで、ノイズ成分を低減させた高い信号対雑音比による質の高いニューロン信号取得を世界で初めて実現しました。

<開発秘話>

「提案する局所的な差動計測を実現するために、我々は同軸構造をデバイスの基本構造として使いました。同軸構造にすることで、例えば従来の針電極を横に並べた〜200 µmの電極間隔と比べ、劇的に狭い6 µmの電極間隔を実現し、さらにこれらの近接した2つの電極で局所的に信号の差分をとることで、ニューロンを計測する際のノイズを低減することができました。また、VLS法を用いたことで電極の先端直径を10 µm以下にすることができ、直径が50 µm以上の従来の電極に比べて組織の損傷を低減でき、低い侵襲性も含めた質の高いニューロン信号の計測を可能とするデバイスが完成しました。」と筆頭著者である博士後期課程の井戸川 槙之介は説明します。

<今後の展望>

研究チームは、今回提案したコアキシャル神経電極が長期に渡っても安定した計測が行えるか、組織の損傷評価も含めた検証が今後も必要だと考えています。これらの研究を通して、最終的には、これまでに実現されていない高品質なニューロン信号計測を実現し、その計測技術を脳神経科学の基礎研究だけでなくBMI技術などの医療応用分野、各種の脳疾患の治療に役立てていきたいと考えています。

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<論文情報>

Shinnosuke Idogawa, Koji Yamashita, Yoshihiro Kubota, Hirohito Sawahata, Rioki Sanda, Shota Yamagiwa, Rika Numano, Kowa Koida, and Takeshi Kawano (2020). Coaxial microneedle-electrode for multichannel and local-differential recordings of neuronal activity. Sensors and Actuators B: Chemical, 10.1016/j.snb.2020.128442.


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