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世界初!一人で着脱できる手術用ガウンを実用化

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

Figure 2: Donning Self-gown

image: Left to right: Special ring around neck, temporary fixing function, tear along perforation. view more 

Credit: Osaka University

研究成果のポイント

・医療従事者が一人で清潔・安全かつ速やかに着脱できる、画期的な外科手術用「セルフガウン」を産学官連携で実用化。

・特にグローブ(手術用手袋)を脱ぐ際に発生する飛沫の環境感染[1]を最小限に抑える。

・エボラ出血熱をはじめとする重症感染症に対する危機管理の面から、着脱が速やかで環境感染の危険のない「感染予防着」として、ガウンの重要性が高まっている。

・大規模災害や救急の現場、感染症アウトブレイク[2]の現場などで、医療従事者の迅速な対応を可能に。

・将来的には、介護や医療以外のさまざまな分野(塵芥処理、放射性物質除染作業など)への応用も可能。

概要

大阪大学国際医工情報センター次世代内視鏡治療学共同研究部門の中島清一特任教授(常勤)らと、大衛株式会社(本社:大阪府、代表取締役:加藤光司)とトクセン工業株式会社(本社:兵庫県、代表取締役:金井宏彰)の研究グループは、経済産業省のサポートを得て、手術室や救命センター、外来処置室などでニーズの高い「ひとりで着脱が可能な手術用ガウン」を共同開発し、「セルフガウン」として実用化しました。

従来のガウンは首ヒモ・内ヒモ・腰ヒモを結ぶ際にサポートスタッフの介助がなければ清潔に着脱できない設計でした。本ガウンは、首ヒモの代わりにバネ性のある特殊リングを首周りに編み込み、背中の引き合わせ構造を立体設計することで内ヒモを廃止。さらに、腰ヒモに特殊なミシン目加工を施し、粘着テープによる仮止め機能を付加して、一切の介助なく着脱できる画期的な方式を実現しました。

特記すべきは感染性物質の飛沫を防止できるよう「グローブを内側に巻き込みながら一緒に脱げる」という特長です。従来のガウンは「先にグローブを脱いでから、背面のヒモをほどいて脱ぐ」ため、グローブに付着した感染性物質が飛沫し周囲を汚染するというリスクがありました。脱衣に伴うこのリスクを、セルフガウンは事実上ゼロに抑えます。産学官連携による共同開発の成功事例である本ガウンは、平成29年4月10日に商品化されました。

研究の背景

近年、わが国をはじめとする先進諸国の医療現場では、診断・手術・治療の高度化・複雑化・細分化に伴って、サポートスタッフの労働負荷を軽減し、人的資源を最大限活用する取り組みが検討されています。特に、大規模災害時の医療体制の整備やエボラ出血熱などさまざまな感染症に対する危機管理が喫緊の課題となっています。

医療現場の専門性や特殊性を考慮すれば、患者の安全性を最優先するための職員配置はもちろん、医療機器だけでなく非医療機器[3]についても一層の高機能化、周辺環境の整備を進める必要があります。そうした医療現場のニーズから、サポートなしで医療従事者が自身で着脱できる手術用ガウンの研究が始まりました。

研究の内容

手術室、救命センター、病棟処置室など、医療現場のサポートスタッフの労働負担を軽減し、限られた人的資源を最大限活用できるように、上記の3者はこれまでさまざまな非医療機器の開発を通して、環境整備に取り組んできました。こうした研究・開発の一つが、今回、画期的な「セルフガウン」に結実しました。トクセン工業が考案したバネ性のある特殊リングを、大衛株式会社がガウン首周りに編み込み、試作を重ねながら、中島特任教授(常勤)らの研究グループ指導のもと、約2年の研究開発を経てこのたび製品化にこぎつけました。また、施術後のグローブも巻き込みながら脱衣する新方式で、感染性物質が飛沫して周囲を汚染してしまうリスクをもぬぐい去りました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本ガウンは、多忙を極める医療現場の業務改善と、深刻な問題となっている各種医療事故の防止、安全・安心な医療の実現に大きく寄与します。また、大規模災害や救急の現場、感染症アウトブレイクの現場などでも医療従事者の迅速な対応を可能にします。

西アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱の感染患者治療では、多くの医療スタッフが現地に入り奮闘しました。しかし、感染防止のために着用していた防護服を脱ぐ際に、付着していた感染性物質に触れ一部の関係者が感染する医療事故も報告されています。安全・迅速に脱げる手術用ガウンは、まさにこうした現場で効果を発揮できる非医療機器です。

今後、3者は感染症対策専門家の意見も参考に、本着脱方式のさらなる改良を進めていきます。また、この着脱方式は、医療分野以外で使われる、塵芥処理や放射性物質除染作業の着衣等にも応用可能です。さらに、介護衣類に応用できれば、超高齢社会を迎えたわが国において、本研究の意義はますます広がっていくものと考えます。

特記事項

本研究開発は、文部科学省の平成26年度「地域産学官連携科学技術振興事業費補助金」における大学等シーズ・ニーズ創出強化支援事業(COIビジョン対話プログラム)で見いだされた医療現場のニーズを、経済産業省の平成26~27年度「戦略的基盤技術高度化支援事業」の支援を得て、大衛㈱・トクセン工業㈱と共同でカタチにした、産学官連携による共同開発の事例です。

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用語説明

※1 環境感染

体液や血液、おう吐物・便等の飛沫や接触により、環境(床、壁、ドア等)がウイルスや細菌に汚染されること。

※2 アウトブレイク

ある限定された領域の中で、一定期間に予想以上の頻度で感染が発生し拡大すること。

※3 非医療機器

人もしくは動物の疾病の診断や治療もしくは予防の周辺で使用される材料や装置のことで、患者に全くダメージを与えないため医薬品医療機器等法で管理されていないもの。

研究者のコメント

本研究開発で一番苦労した点は、首周りの特殊リングの開発と背中の引き合わせ機構の最適化です。41種類の試作品を作成し、一年半の研究期間に17回のアニマルラボと5回の臨床試験を繰り返し、海外含め延べ100名を超える外科医から評価を頂き、ようやく着脱方式を確立できました。

また、感染管理や救命救急の専門医にもアドバイスを得ながら、画期的なガウンを開発することができました。本成果を幅広く広めていきたいと考えています。


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