image: Image of a single rat spermatozoa. Total length: about 200μm view more
Credit: Professor Naomi Nakagata
ラット精子の凍結保存は約20年前に開発されました。ラット精子は他の動物種の精子の2~4倍の大きさであり、pH、浸透圧、温度等の物理的変化によるダメージを受け易いため、凍結融解後の精子の運動性は極めて悪く、夜中(午後10:00~11:00)に雌の子宮内へ人工授精を実施しないと産子が得られず、また得られる産子数が少ないことから、実用化があまり進んでいませんでした。
そこで、熊本大学生命資源研究・支援センターの中潟教授、竹尾講師らは、融解後も良好な運動性が得られるラット精子の凍結保存法の開発に精力的に取り組んできました。凍結する過程で精子が動いていると融解後に運動性のある精子が得られないことがわかっていたため、まず、凍結する前に精子を氷上で冷やし、できるだけ精子の運動性を停止させました。すると、融解後、運動性のある精子がわずかに認められました。さらに、融解した精子をゆっくりと時間をかけて保存液から体外受精用培養液に移したところ、比較的良好な運動性のある精子が得られました。
このようにして開発した凍結法を用いて、緑色の蛍光を発する遺伝子改変ラット(EGFPラット)精子の凍結保存を行い、融解後、これらの精子を用いて体外受精を試みました。驚いたことに、受精率は80% を超え、得られた受精卵を仮親へ移植した結果、1匹の雄ラットから得たラット精子から、300匹以上の産子を作製することに成功しました 。
精子の凍結保存法は、受精卵の凍結保存法よりも試料の採取方法が容易であり、1匹の雄ラットから多くの細胞を得ることができます(5千万~1億匹)。近年、ゲノム編集技術を用いて、ヒトの病気の治療法の開発に有用な遺伝子改変ラットが次々と作製されており、遺伝子改変ラットの系統の効率的な保存技術が求められています。今回中潟教授らが開発した技術は、遺伝子改変ラットの効率的な保存や利用を促進し、難病に対する治療法の開発を加速させることが期待できます。
中潟教授は次のようにコメントしています。
「ラットはマウスの約10 倍の大きさであり、膨大な飼育スペースとコストが必要であることから、今回開発した「良好な成績が得られるラット精子の凍結保存技術」は、世界中で作製されている遺伝子改変ラットの系統保存技術として大きく貢献するとともに、急速に普及、グローバルスタンダードとなることが期待されます。」
本研究成果は、科学ジャーナル「Scientific Reports」に2020年1月9日に掲載されました。
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[Source]
Nakagata, N., Mikoda, N., Nakao, S., Nakatsukasa, E., & Takeo, T. (2020). Establishment of sperm cryopreservation and in vitro fertilisation protocols for rats. Scientific Reports, 10(1). doi:10.1038/s41598-019-57090-7
Journal
Scientific Reports