News Release

TNFαはWNKシグナルを活性化し慢性腎臓病の塩分感受性高血圧発症に関わる

免疫機構による新しい血圧制御メカニズムの解明

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Schematic illustrating TNFα-induced WNK pathway activation and salt-sensitive hypertension in chronic kidney disease (CKD)

image: WNK phosphorylation cascade plays an important role in sodium handling in the distal nephron of the kidney. Over-activation of this pathway increases sodium reabsorption through NaCl cotransporter (NCC) and causes salt-sensitive hypertension. This study demonstrated that TNFα activates WNK1-SPAK-NCC phosphorylation cascade by suppressing NEDD4-2 which degrades WNK1, contributing to salt-sensitive hypertension in CKD with increased renal TNFα. Therefore, WNK phosphorylation cascade may be a link between immune systems and hypertension. In addition, TNFα-WNK1-SPAK-NCC axis may be activated in patients with CKD for whom thiazide diuretics, NCC inhibitors, are effective. view more 

Credit: Department of Nephrology,TMDU

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の蘇原映誠准教授と古荘泰佑大学院生らの研究グループは、CKDにおける塩分感受性亢進の原因にWNKシグナルの亢進が関わっていることを発見し、TNFαの阻害がWNKシグナルの抑制を介して塩分感受性の是正に繋がることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、公益法人ソルトサイエンス研究財団、公益財団法人石橋由紀子記念基金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Kidney Internationalに、2020年2月11日午後7時(米国時間)にオンライン版で発表されます。

【研究の背景】  

高血圧は慢性腎臓病(CKD)に高頻度に合併し、腎機能をさらに悪化させるとともに脳卒中、心疾患発症につながることから適切なコントロールが重要です。摂取した塩分が適切に排泄されないと体液量の増加から血圧が上昇することが知られていますが、CKDでは塩分貯留傾向となり血圧コントロールが難しくなります。近年、CKDの塩分感受性亢進に尿細管での塩分再吸収の増加が関わることが報告されていますが、腎臓遠位尿細管においてナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)を活性化し塩分再吸収を増加させるWNKシグナルの関与については不明でした。そして、近年注目されている免疫機構による血圧制御メカニズムにWNKシグナルが関わるかどうかもまた不明でした。

【研究成果の概要】

 本研究ではCKDマウスモデルを用いて、WNKシグナルと塩分感受性を評価しました。その結果、CKDマウスモデルの一部でWNK1-SPAKシグナルが亢進し塩分感受性高血圧発症に関わっていることを発見しました。WNK1-SPAKシグナルの亢進しているCKDモデル(アリストロキア酸腎症、アデニン腎症)と亢進のないモデル(6分の5腎摘モデル)の違いに注目し解析を行なった結果、炎症性サイトカインの一つであるTNFαがWNK1-SPAKシグナルの亢進に関わっていることが示唆されました。実際に、腎臓の培養細胞にTNFαを負荷した所WNK1シグナルが亢進しました。さらに、WNK1-SPAKシグナルが亢進しているCKDマウスモデルにTNF阻害薬を投与した実験結果から、CKD腎臓で産生が増加したTNFαはWNK1蛋白の分解を担うNEDD4-2の発現を抑制し、増加したWNK1蛋白が塩分再吸収を増加させて塩分感受性高血圧を惹起していることが明らかになりました。

【研究成果の意義】  

本研究は、WNKシグナルが免疫機構による血圧制御メカニズムの一端を担っており、CKDの塩分感受性亢進に関わっていることを世界に先駆けて明らかにしました。CKDではNCCの阻害薬であるサイアザイド系利尿薬の効果に個人差があることが知られていますが、サイアザイドの有効なCKDでは本研究で明らかとなったTNFα-WNK1-SPAK-NCCシグナルが活性化している可能性があります。そのため、腎臓でのTNFα産生の評価は腎機能の低下した患者個々に対する適切な降圧療法選択に有用と考えられます。

【用語解説】

※1 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)  慢性腎臓病は慢性的な腎障害、腎機能の低下をきたした病態であり、本邦の罹患者は1300万人である。原因は糖尿病、高血圧、腎炎など様々であり、腎機能を失うことによる透析療法だけでなく、脳卒中、心疾患のリスクでもあることが知られている。高血圧はCKDに高率に合併し、これらのリスクをさらに上昇させることから適切な血圧コントロールが重要である。

※2 塩分感受性

 塩分摂取量に応じて血圧が変動する病態のことである。高血圧罹患者の30-50%が塩分摂取の増加により血圧が上昇する塩分感受性高血圧であると報告されており、塩分感受性高血圧は塩分摂取の影響を受けない高血圧と比較して心血管疾患発症や透析導入のリスクが高いことが知られている。CKDは高齢者、メタボリック症候群、アフリカ系アメリカ人と並んで塩分感受性高血圧を発症しやすい集団であることが知られている。

※3 WNK(-SPAK-NCC)シグナル  

腎臓遠位尿細管においてWNK1、WNK4の二つのWNKキナーゼがSPAKキナーゼをリン酸化、活性化し、活性化したSPAKキナーゼがナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)を活性化し塩分再吸収を増加させる塩分出納の調節機構である。このシグナルの過剰活性化は、シグナル解明の端緒となった遺伝性高血圧疾患である偽性低アルドステロン症Ⅱ型だけでなく、メタボリック症候群やカリウム摂取不足による塩分感受性高血圧に関わることが知られている。

※4 ナトリウム-クロライド共輸送体(NCC)  

腎臓は糸球体で濾過された原尿からナトリウムの再吸収を行うことで体全体の塩分出納を調節している。腎臓遠位尿細管においてナトリウムの再吸収を担う輸送体がNCCであり、塩分出納に重要な役割を果たしている。利尿剤の一種であるサイアザイドはNCCを阻害することでNa排泄を増加させ、降圧効果をもたらす。

※5 Tumor Necrosis Factor (TNF)α  

主にマクロファージ、T細胞などの免疫細胞によって産生される炎症性サイトカインであるが、腎実質細胞も産生することが知られている。TNF阻害薬は関節リウマチや炎症性腸疾患などの治療薬として使用されている。

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