News Release

皮膚がんなどの発症なし222nm紫外線(UV-C)繰り返し照射の安全性を世界で初めて実証 

医療分野や日常での殺菌・消毒の用途拡大に期待

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

図1

image: 人体に安全な殺菌灯の開発 view more 

Credit: 神戸大学

神戸大学大学院医学研究科内科系講座皮膚科学分野(錦織 千佳子教授、国定 充講師、山野 希 大学院生ら)と、ウシオ電機株式会社(東京本社)の研究グループは、高い殺菌力を持つ222nmの紫外線(UV-C)を反復照射しても、皮膚がんが発症しないことなどを世界で初めて実証し、ヒトの皮膚や眼にも安全であることを報告しました。

今後、医療や日常生活においてヒトへの直接照射による消毒・殺菌の用途拡大など、幅広い応用が期待されます。

この研究成果は、3月29日に、Photochemistry & Photobiologyにオンライン掲載され、6月28日に錦織教授がAmerican Society of Photobiology 2020 meeting(Chicago)で招待講演を行う予定です。

ポイント

>世界で初めて、222nm紫外線(UV-C)を反復照射しても皮膚がんが発生しないことを実証した。

>その結果、ヒトの皮膚と眼にも安全であることが確認された。

>使用した222nm殺菌ランプにおける動物実験で、非常に紫外線に弱いマウスにおいても皮膚および眼にはがんや白内障※1などの影響が全く出なかった。

>これまでヒトには有害とされた殺菌ランプをヒトに対して直接照射できるようになり、医療や日常生活において殺菌やウイルスの不活化の幅広い応用が期待される。

研究の背景

UVC(波長280~200nm)はオゾン層で吸収されるため、地表には届きません。しかし、その強い殺菌力を人工的に活用するため、UVCの中でも波長254nmを照射する殺菌ランプが開発され、使用されています。その254nm殺菌ランプは強い殺菌力を持つ反面、皮膚がんや白内障を生じさせるなど人体に対して有害性が強いことから、これまでは照射中はヒトが立ち入れない場所でのみ使用されてきました。

今回の実験で使用したランプは、254nmよりさらに短い波長である222nmを照射するランプで、医療での活用を想定して開発が始まったものです。222nmは、254nmと比べて、実際にヒトの皮膚表面において、254nmと遜色ない殺菌力を有することが神戸大学大学院医学研究科整形外科学講座(黒田 良祐教授)で報告されていましたが、医療現場では人体に対して直接、かつ繰り返し照射する可能性があるため、発がん性などその安全性についての検証が必要でした。

研究の内容

紫外線に対して非常に感受性が高く、野生型マウスに比べて約10,000倍皮膚がんになりやすいとされる色素性乾皮症A群※2モデルマウスに対して222nm殺菌ランプを繰り返し照射し、皮膚と眼についての安全性を検証しました。

対照として、太陽光中の皮膚がんを起こさせる波長であるUVB(波長 280~315nm)を照射した群では、すべてのマウスに皮膚がんができ、また角膜の損傷や白内障などの影響も広範に認められました。

それに対して222nm殺菌ランプ照射群マウスでは皮膚がんが全く出来ず、眼については島根大学眼科学講座(谷戸 正樹教授)の協力のもと検証を行いましたが、顕微鏡での観察レベルでも全く異常が出ませんでした(図1)。

また、222nmが無害であった理由は、その深達度にあることが分かりました。皮膚においては、従来の紫外線が皮膚の表皮の基底層という一番下層にまで到達し、細胞のDNAを損傷させてしまうのに対し、222nmは角質細胞層という極めて表層の(垢になる)部分までしか到達しないため、表皮細胞のDNAを損傷させないことが明らかになりました。

今後の展開

本研究成果によって、222nmは強力な殺菌力を有しながらも人体の皮膚に直接照射できることが明らかになりました。今後、医療現場での手指消毒を始め、学校や介護施設、食品工場、トイレやキッチンなどヒトが立ち入る場所において、殺菌やウイルスの不活化を目的とした幅広い用途拡大が期待できます。

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用語解説

※1 白内障

眼においてレンズの働きをする水晶体は主にたんぱく質と水でできています。たんぱく質は、加齢や、長年にわたる紫外線曝露など、さまざまな影響を受けて、だんだんと変化し白く濁ります。その結果、水晶体全体が濁り、視力の低下を招くことになります。

※2 色素性乾皮症

紫外線によって生じるDNA損傷を修復出来ない遺伝性疾患で、DNAの傷を直すことができないため、紫外線を防御し続けないと小学生の頃より無数の皮膚がんができます。日本では人口10万人あたり約5人の有病率とされています。

謝辞

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行いました(JP16k10126)。


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