News Release

腸内細菌が血糖値・血中脂質に影響するメカニズムを解明

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Changes to Blood Sugar and Lipid Concentrations by Antibiotics and Secondary Bile Acid Admin

image: Comparison of sugar and lipid concentration fluctuations in blood in a dysbiosis mouse model and non-antibiotic administered mice. Both sugar and lipid concentrations decreased in mice that received antibiotics only. view more 

Credit: Professor Sumio Ohtsuki

 近年、腸内細菌は宿主であるヒトの生理機能や疾患に様々な影響を与えることで注目されています。今回、熊本大学の研究者らは、腸内細菌の変化が糖や脂質の代謝に与える影響を解析した結果、腸内細菌によって産生される二次胆汁酸が血糖値及び血中の脂質濃度に関与していることと、その分子メカニズムの一端を明らかにしました。本成果は、二次胆汁酸を産生する腸内細菌を標的とした糖尿病や脂質異常症などの代謝疾患の治療につながることが期待されます。

【研究の背景】  

我々の腸内には100兆個以上もの細菌が生息しており、その細菌種は約1,000種にも及ぶと見積もられています。腸内細菌は宿主の健康に関与することが知られています。肥満の人とそうでない人では腸内細菌の種類の傾向が異なることや、腸内細菌によって生体のエネルギー消費の上昇と脂肪蓄積の抑制を引き起こす可能性が報告されています。その他に、2型糖尿病などの生活習慣病、自閉症などの神経疾患、大腸がんなどの腸疾患の発症とも関連があることが明らかになっています。

 腸内細菌を変化させる一つの要因は抗菌薬の服用です。抗菌薬は細菌感染症の治療及び予防に対して有効な薬である一方で、腸内の細菌集団の質的、量的なバランスの破綻(dysbiosis)をもたらすとともに、生体機能に対しても様々な影響を与えることが明らかになってきています。例えば短期的な抗菌薬服用による重篤な副作用としては、頻度は多いものではないですが、低血糖が知られています。実際に、ガチフロキサシンなどのいくつかの抗菌薬は低血糖を含む副作用のため、販売中止となっています。他にも、幼児もしくは小児期の抗菌薬の服用は、その後の体重増加のペースを早める可能性が報告されています。

 これまでの研究成果から、抗菌薬投与によるdysbiosisは糖及び脂質の代謝を担う組織である肝臓のタンパク質発現量に影響を与えることが明らかになっています。そこで、抗菌薬投与によるdysbiosisが宿主の糖・脂質代謝に与える影響、及びそのメカニズムを明らかにすることを目指して、熊本大学の研究者らが研究を行いました。

【研究の内容】  

抗菌薬の5日間投与によって作成したdysbiosisモデルマウスでは、血糖値及び血中の脂質成分トリグリセリドの濃度が抗菌薬非投与マウスと比較してそれぞれ64%及び43%に減少しました。これらの減少に関わるメカニズムとして、研究者らは腸内細菌が産生する代謝物であり、糖や脂質代謝に関わる肝臓の機能を制御している二次胆汁酸に注目しました。

 抗菌薬の5日間投与によってdysbiosisモデルマウスでは、二次胆汁酸を産生する腸内細菌が減少しており、肝臓の二次胆汁酸(リトコール酸及びデオキシコール酸)濃度がそれぞれ抗菌薬非投与マウスの20%及び0.6%に減少していました。抗菌薬投与と同時に二次胆汁酸を補充すると、血糖値及び血中のトリグリセリド濃度の低下は回復しました。この結果は、腸内細菌が産生する二次胆汁酸が宿主の糖、脂質代謝に影響を与える要因であることを示しています。

 次に、腸内細菌が産生する二次胆汁酸がどのようにして肝臓の糖、脂質代謝に影響を与えるかを、タンパク質の量を網羅的に解析する定量プロテオミクスによって解析しました。その結果、dysbiosisモデルマウスの肝臓では、グリコーゲン代謝(糖の貯蔵)及びコレステロール・胆汁酸の生合成に関わるタンパク質の発現量が変化しており、その変化が二次胆汁酸の補充によって回復することを示しました。

研究を主導した熊本大学の大槻純男教授は次のようにコメントしています。

「本研究の成果は、二次胆汁酸及びそれを産生する腸内細菌が生体の糖・脂質濃度に関与している可能性を示しています。今後、二次胆汁酸を産生する細菌が糖尿病や脂質異常症などの代謝疾患の予防もしくは治療の標的となることが期待されます。」

本研究成果は、科学ジャーナル「Scientific Reports」に平成30年1月19日掲載されました。

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[Source]

Kuno, T., Hirayama-Kurogi, M., Ito, S., & Ohtsuki, S. (2018). Reduction in hepatic secondary bile acids caused by short-term antibiotic-induced dysbiosis decreases mouse serum glucose and triglyceride levels. Scientific Reports, 8(1). doi:10.1038/s41598-018-19545-1


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