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世界初!自閉スペクトラム症の言語発達に関わる脳の特徴を可視化―言語発達の遅れに関連する脳機能について新たな知見―

Peer-Reviewed Publication

Kanazawa University

Comparison

image: This is a comparison of the MMF amplitudes in the left pars orbitalis among the three groups. There was a significant differences among the three groups (F = 6.932 P = 0.002, α = 0.0025). view more 

Credit: Kanazawa University

【研究の背景】

近年,発達障害に対する対応は社会の大きな課題となっており,できるだけ早期にその特徴を捉え,適切な支援につなげることが求められています。発達障害のなかでも,自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders: ASD)は,生後まもなくから症状が現れる神経発達障害で,他の発達障害との合併も多く,早期から医療だけでなく教育機関や福祉施設など多領域が連携し,ASDの特性を考慮した周囲の働きかけや家庭・学校など生活環境を整える必要があります。ASDに対する理解を深め支援を進めることは,医療や教育・福祉にとって最重要課題の一つといえます。

ASDは多様性が大きく,個々の特徴を生物学的に正確に捉えて,個別の病態メカニズムを明らかにして,効果的な介入方法を検討する必要があります。しかしながら,現状ではこのような生物学的指標がありませんでした。本研究の重要な点は,ASDの多様性の一つを,幼児期から生物学的指標で捉えることができたことです。言語発達の遅れは,多くの自閉スペクトラム症の方に見られ,健全なコミュニケーションや社会性・対人面の発達に支障をもたらす中核特性の一つです。しかし,多様な症状を示す自閉スペクトラム症児には,乳幼児期に言語発達に遅れがある子どもたちもいれば,遅れのない子どもたちもおり,言語発達の遅れの有無に関連する脳機能の違いについてはほとんど明らかにされていませんでした。

幼児用脳磁計(Magnetoencephalography: MEG)は,超伝導センサー技術(SQUID磁束計)を用いて,脳の微弱磁場を頭皮上から体に全く害のない方法で計測,解析する装置で,脳磁計を,幼児用に開発したものです。幼児用MEGでは超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせ,頭全体をカバーするように配置することで,高感度で神経の活動を記録することが可能です。

MEGは神経の電気的な活動を直接捉えることが可能であり,その高い時間分解能(ミリ秒単位)と高い空間分解能において優れているため,脳の機能やネットワークを評価する方法として期待されています。さらにMEGは放射線を用いたりせず,狭い空間に入る必要がないことから,幼児期の脳機能検査として存在意義が高まっています。

【研究成果の概要】

3歳から5歳の定型発達の子ども46名と言語発達に遅れがあった自閉スペクトラム症児23名,遅れのなかった自閉スペクトラム症児24名が本研究に参加しました。母子のコミュニケーションにおいてよく使われる日本語の音韻「ね」を用いて,平坦な言い方の「ね」と抑揚のある言い方「ねぇ」の2種類を聞いたときの脳活動を調べ,比較しました。

その結果,言語発達に遅れのある自閉スペクトラム症児は,健常児や言葉の発達に遅れのない自閉スペクトラム症児に比べて,前頭葉の反応が大きいことを発見しました。側頭葉に関しては,自閉スペクトラム症児は,言語獲得の遅れの有無にかかわらず聴覚野の活動が乏しいことを発見しました。

【研究成果の意義・今後の展開】

本研究成果から,自閉スペクトラム症児の言語発達の遅れのある子どもとない子どもで,言語発達に関連する脳活動に違いがあることを新たに理解することができました。今回,用いた生理学的指標(ミスマッチネガティビティ)は,刺激に注意を向けていなくても捉えることができるため,注意のコントロールが難しい乳幼児に適しています。言語発達に遅れが認められるメカニズムが解明されることで自閉スぺクトラム症児の脳活動のメカニズムの解明や支援法,治療薬の開発などにつながることが期待されます。

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