閉塞性肺疾患は、慢性気道炎症や過剰な粘液貯留、およびこれらの症状に伴う気道閉塞を主徴とする難治性の呼吸器疾患の総称です。慢性気管支炎や肺気腫を主徴とする慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、粘液の貯留や慢性細菌感染が認められる難治性遺伝性疾患の嚢胞性線維症 (CF) などの疾患が、これにあたります。
COPDは、タバコを主要因とする疾患で、日本人の40歳以上のCOPD患者数は530万人と推定され、世界の死亡順位は現在第3位であり、身近に起こる致死率の高い疾患です。病気の発症・進展には、「イオンチャネル」というイオンを透過させる輸送体タンパクが関わっています。COPDでは上皮型ナトリウムイオン(Na+)チャネル(ENaC)の過剰活性化が関与すると考えられています。一方でCFは、欧米では極めて頻度の高い遺伝子疾患です。こちらはクロライドイオン(Cl-)チャネルであるCFTRの遺伝子変異により発症します。
これまで、COPDやCFなどの閉塞性肺疾患の病気の進展には、肺内における粘液遺伝子(MUC5ACなど)の過剰な産生が重要であることが明らかとなっていました。しかし、なぜ、タバコと遺伝といった異なる原因を持つこれらの肺疾患で、共通して粘液遺伝子の過剰産生が起こるのか、その詳細な機序は明らかではありませんでした。
本研究では、COPDとCFの発症や病気の進展に寄与する責任分子としての共通因子であるイオンチャネル、ENaCとCFTRの異常が、亜鉛(Zn2+、亜鉛イオン)を肺の上皮細胞に送り届ける機能を低下させることを初めて明らかにしました。また、亜鉛イオンの運搬因子の一つ(ZIP2)が正しく機能するためにはmRNAの連結(mRNAスプライシング)が重要となりますが、COPDやCFの肺の上皮細胞では、mRNA連結に異常をきたし、結果として、粘液遺伝子の過剰産生が引き起こされることを明らかにしました(図1、2参照)。つまり、肺上皮細胞へ亜鉛が充分に供給されないことによって粘液が過剰に産生され、病気が進展していたのです。
一般に、亜鉛は、肺のみならず生体にとって大変重要な元素ですが、これまで亜鉛の肺における重要性は、栄養学的な側面からしか理解されてきませんでした。今回の発見は、「亜鉛が、生命の根幹を担うmRNAの連結調節に影響し、肺疾患の発症に関わる」ことを世界で初めて明らかにするものです。
研究を主導した熊本大学の首藤准教授は以下のようにコメントしています。 「本研究成果は、閉塞性肺疾患時は亜鉛の輸送機構そのものに異常があることを証明するものであり、治療には単に亜鉛を補給すればよいというものではなく、輸送機構の改善を考慮した治療アプローチが必要であることを示唆しています。」
本研究成果は、科学ジャーナル「EBioMedicine」に平成29年12月20日掲載されました。
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Kamei, S., Fujikawa, H., Nohara, H., Ueno-Shuto, K., Maruta, K., Nakashima, R., … Shuto, T. (2017). Zinc Deficiency via a Splice Switch in Zinc Importer ZIP2/SLC39A2 Causes Cystic Fibrosis-Associated MUC5AC Hypersecretion in Airway Epithelial Cells. EBioMedicine. doi:10.1016/j.ebiom.2017.12.025
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EBioMedicine