image: Motor cortices detect an error and issue a command for target alignment. view more
Credit: Osaka University
本研究成果のポイント
- 手を伸ばす運動の「間違いの向きと大きさ」の情報が、運動直後に大脳の運動野に現れることを発見
- 運動直後0.1秒以内に運動野を電気刺激すると、「照準」を変えることができることを証明
- 電気刺激を使った新たな運動機能増進法やリハビリテーション法の開発につながることに期待
リリース概要
大阪大学大学院生命機能研究科ダイナミックブレインネットワーク研究室北澤茂教授と、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター井上雅仁研究員らは、手を伸ばす運動の「間違いの向きと大きさ」の情報が大脳の運動野※1 に現れることを明らかにしました。さらに、手を伸ばす運動直後0.1秒以内に、運動野に微小な電気刺激を与えると、少しずつ運動の「照準」を変化させうることを示しました。例えば、「目標の右に手がずれたこと」を伝える場所を刺激すると、次回の運動の照準は左にすこしだけ修正される、という具合です(図1)。
本研究により、大脳の運動野にはあらゆる方向のずれに対応する神経細胞(ニューロン)があり、司令塔として、運動を行うたびに照準のずれを直すための信号を送り出していることが実証されました。
本研究の成果は、電気刺激を使って運動技能を向上させる新たな運動機能増進法やリハビリテーション法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2016年5月13日(金)午前1時(日本時間)に米国科学誌「Neuron」電子版に掲載されました。
研究の背景
運動がうまくなるには練習が欠かせません。初めは下手だったのに、こつこつ練習を繰り返すとうまくなるのはなぜでしょうか?それは、運動の「間違い」を減らすように脳が「学習」するからです。この「間違い」を減らす学習には小脳と呼ばれる大脳の下後方にある場所が重要であることが知られています。この小脳には運動の「間違い」を知らせる信号が届いていることもわかっていました。しかし、その「間違い」の信号がどこから来るのかは不明でした。
北澤教授らの研究グループは、1990年ごろに提唱された学説(フィードバック誤差学習※2 )が想定したように、体を動かす司令塔である大脳皮質の「運動野」が「運動の間違いを直そうとして」発する信号が学習に用いられる「間違い」の信号だろうと予想して、サルを用いて、1)サルの「運動野」に間違いの信号があるかどうか、また2)その信号が本当に学習に用いられているかどうか、の2点を調べました。
研究の成果
まず、サルに目の前に現れる十字の目標に向かって手を伸ばさせました。その時に、わざと間違いを起こすように、コンピュータ制御したプリズム装置を使って、ランダムな方向に視野をずらす工夫をしました。こうすることで、目標が見える場所に手を伸ばしても、右や左に少しずれて手が到着します。この運動の前後の、運動野のニューロンの活動※3 を記録して、間違いの方向に応じた活動が生じているかどうかを調べました。すると、一次運動野※4 でも運動前野※5 でも、運動を間違えた方向に応じた活動が、運動の直後に生じていることが分かりました。また、それぞれのニューロンには誤差の守備範囲がありました。あるニューロンは「左にずれた」時によく活動して、別のニューロンは「右下にずれた」時によく活動する、といった具合です(図2)。全体としては、あらゆる方向の誤差に対応していました。
###
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、電気刺激を使って運動技能を向上させる新しい運動機能増進法やリハビリテーション法の開発につながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2016年5月13日(金)午前1時(日本時間)に米国科学誌「Neuron」電子版に掲載されました。
タイトル:Error signals in motor cortices drive adaptation in reaching
雑誌:Neuron
著者名:井上雅仁、内村元昭、北澤茂
Journal
Neuron