News Release

難治性癌の治療を目的とした核酸医薬搭載可能な世界最小スケールのナノ医薬品の開発

Peer-Reviewed Publication

Innovation Center of NanoMedicine

video: Nanomedicines consisting of one molecule of oligonucleotide and one or two molecules of Y-shaped block copolymer(s), of which the size is approximately 18 nm and is in dynamic equilibrium with free Y-shaped block copolymers in human body. view more 

Credit: 2021 Innovation Center of NanoMedicine

公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(センター長:片岡一則、所在地:川崎市川崎区、略称:iCONM)は、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻宮田完二郎 准教授らとの共同研究により、ユニットポリイオンコンプレックス (uPIC) と呼ばれる超微小ナノ医薬品(注1)を開発しました。直径が18 nm程度の本ナノ医薬品は、生体組織の透過性に優れており、毛細血管の間隙が非常に狭い脳腫瘍や線維性の間質と呼ばれる組織で覆われた膵臓癌のような難治性の癌に対する治療応用が期待できます。また、mRNAやsmall interfering RNA(siRNA)、アンチセンス核酸(ASO)といった核酸医薬(注2)は、抗体医薬などのバイオ医薬品に比べ製造が容易でコストも低く抑えられる利点があるものの、生体内ではヌクレアーゼなどの働きにより速やかに分解されてしまうため、この欠点を克服するためにナノ医薬品が注目されています。特に、昨今は新型コロナウイルス感染症予防を目的に開発が進む mRNAワクチンでもナノ医薬品の重要性がしばしば報道されておりますが、ナノ医薬品成分そのものに免疫原性があるとアナフィラキシーショックなどの有害事象に繋がるリスクがあるため、私どもは、すべてが非生体成分からなる高分子材料(注3)を用いた核酸医薬搭載型ナノ医薬品の開発に注力しています。

 uPICは、「ポリエチレングリコールとポリリシンがY字型に連結されたブロックコポリマー」と「1分子の核酸医薬」との間で静電相互作用を介して形成されます。uPICは1分子の核酸医薬のみ搭載しているため、既存の脂質分子を用いたナノ医薬品(約100 nm)と比べて、サイズを劇的に小さく調整することができます。もう1つの特徴として、uPICは遊離のY字型ブロックコポリマーとの間で動的平衡状態を保っていることが挙げられます(注1)。これらの性質により、uPICは血流中で優れた安定性(あるいは滞留性)を示し、血液-脳腫瘍関門で遮られた脳腫瘍にも核酸医薬を送り届けることができるようになります。今回発表した論文では、uPICの血中安定性をさらに高めるために、特に核酸医薬側の構造に注目しました。結果として、①化学修飾型核酸を使用すること、②1本鎖の核酸医薬を2本鎖にすること、の2つのアプローチを通じてuPICの血中半減期を大幅に延長することに成功しました。今回の研究成果はナノ医薬品の大きな可能性を示すものです。既に uPICを用いた治験や臨床研究が始まっており、近い将来、優れたナノ医薬品が次々に生み出されていくことが期待されます。

注1:uPIC(unit polyion complex):1分子の核酸医薬と1~2分子のY字型ブロックコポリマーで構成されるナノ医薬品。サイズが約18 nmであり、生体内で遊離のY字型ブロックコポリマーと動的平衡状態にある。以下の YouTube 動画参照 https://youtu.be/E90zF6_gL28

uPICの動的平衡を最初に報告した論文:S. Watanabe, K. Hayashi, K. Toh, H. J. Kim, X. Liu, H. Chaya, S. Fukushima, K. Katsushima, Y. Kondo, S. Uchida, S. Ogura, T. Nomoto, H. Takemoto, H. Cabral, H. Kinoh, H. Y. Tanaka, M. R. Kano, Y. Matsumoto, H. Fukuhara, S. Uchida, M. Nangaku, K. Osada, N. Nishiyama, K. Miyata and K. Kataoka, ”In vivo rendezvous of small nucleic acid drugs with charge-matched block catiomers to target cancers” Nature Communications 10, 1894 (2019) (https://www.nature.com/articles/s41467-019-09856-w)

注2:核酸医薬:疾病の原因となる遺伝子 (DNA) やそこから転写された mRNA に作用し、遺伝情報の伝達や発現を制御することで疾病治療を行う医薬品。遺伝情報となる核酸に結合して翻訳を阻害するアンチセンス医薬品や mRNAを切断して機能しなくさせる siRNAなど様々なものが研究開発されている。参考:http://www.nihs.go.jp/mtgt/section-1/related%20materials/0-19.pdf (国立医薬品食品衛生研究所公開資料)

注3:高分子ナノミセル:様々な機能性分子を持つ両親媒性ポリマーを水中で会合させることにより形成される数十nm径のミセル(ナノミセル)。 H. Cabral, K. Miyata, K. Osada, K. Kataoka, “Block copolymer micelles in nanomedicine applications” Chem. Rev.118 (14) 6844-6892 (2018) (DOI: 10.1021/acs.chemrev.8b00199)

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 公益財団法人川崎市産業振興財団について  

産業の空洞化と需要構造の変化に対処する目的で、川崎市の100%出捐により昭和63年に設立されました。市場開拓、研究開発型企業への脱皮、それを支える技術力の養成、人材の育成、市場ニーズの把握等をより高次に実現するため、川崎市産業振興会館の機能を活用し、地域産業情報の交流促進、研究開発機構の創設による技術の高度化と企業交流、研修会等による創造性豊かな人材の育成、展示事業による販路拡大等の事業を推進し、地域経済の活性化に寄与しています。 https://www.kawasaki-net.ne.jp/

 ナノ医療イノベーションセンターについて  

ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、キングスカイフロントにおけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、川崎市の依頼により、公益財団法人川崎市産業振興財団が、事業者兼提案者として国の施策を活用し、平成27年4月より運営を開始しました。有機合成・微細加工から前臨床試験までの研究開発を一気通貫で行うことが可能な最先端の設備と 実験機器を備え、産学官・医工連携によるオープンイノベーションを推進することを目的に設計された、世界でも類を見ない非常にユニークな研究施設です。  https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

センター・オブ・イノベーション (COI) プログラムについて

 COIプログラムは、文部科学省・科学技術振興機構の下で進められている研究開発プログラムで、将来社会に潜在する課題から、現在取り組むべき異分野融合・連携型の研究開発テーマをバックキャストして設定しています。企業や大学だけでは実現できないイノベーションを産学連携で実現する拠点が全国に18か所設立されました。川崎拠点は、その中で唯一、大学でなく地方自治体が管理するCOI拠点であり、そこで実施する研究プロジェクトを、COINS (Center of Open Innovation Network for Smart Health) と呼んでいます。

 COI: https://www.jst.go.jp/coi/

COINS : https://coins.kawasaki-net.ne.jp/

2021年1月19日


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