News Release

「MLX遺伝子の一塩基変異が高安動脈炎の悪化の原因となる分子メカニズムを解明」

一新規診断・治療法の開発に期待一

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Figure: Single Nucleotide Polymorphism of MLX Gene

image: Single nucleotide polymorphism of MLX gene enhances the transcription of TXNIP, thereby promoting inflammasome-mediated inflammatory activity. view more 

Credit: Department of Cardiovascular Medicine,TMDU

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科循環制御内科分野の前嶋康浩講師の研究グループは、榊原記念病院、東京大学、等との共同研究で、高安動脈炎の病勢悪化の原因が MLX 遺伝子の一塩基変異によることをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、AMED 補助金ならびに武田科学振興財団の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、米国心臓協会誌 Circulation: Genomic and Precision Medicine に、2018 年 10 月 15 日(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】

高安動脈炎は大動脈をはじめとする大型動脈が炎症に侵されて狭窄や拡張を生じ、多彩かつ重篤な症状を示す難治性疾患です。約 100 年前に本邦で発見されて以来、患者数が多い(全患者数約 6,000 名、毎年の新規発症数は約 300 名前後)こともあり、我が国が本疾患研究の先頭に立ってきました。高安動脈炎は自己免疫異常により病状が進展しますが、その発症機序については不明のままです。そのため治療は非特異的な免疫抑制療法に限られており、治療難渋例が多いのが現状です。高安動脈炎患者の約 98%は弧発例ですが、一卵性双生児の症例や親子発症例が存在することから、本症の発症に遺伝要因が関与している可能性は以前から指摘されてきました。以前に、免疫制御に関与しているヒト白血球組織適合抗原(HLA)クラス I分子-B*52 の陽性例では、陰性例と比較して重症例が多いことが報告されています。研究グループは以前に高安動脈炎患者を対象とした全ゲノム関連解析(GWAS)を施行して高安動脈炎の疾患関連感受性遺伝子を発見しました(Terao C et al. Am J Hum Genet 2013)。その結果、既知の 6 番染色体上にある HLA-B 領域のほか、5 番染色体上にある IL12B 領域と 17 番染色体上にある MLX 領域の一塩基多型(SNP)が高安動脈炎と関連していることを見いだしました。しかしながら、これらのうちどの遺伝子が高安動脈炎の発症により重要な役割を担っているかについては不明のままでした。

【研究成果の概要】

高安動脈炎患者96名(男性 5名、女性 91名、平均年齢 46.8歳、平均年齢 27.2歳)のうち、MLX遺伝子のリスクアレル(GG, n=33, 34%; AG, n=43, 45%)を有する患者の方がリスクアレルを有さない患者(AA, n=20, 21%)より有意に多数でした。また、中等度から重度の大動脈弁閉鎖不全を合併する比率はMLX遺伝子のリスクアレルを有する高安動脈炎患者(GG, 9/33名, 27%; AG, 11/43名, 26%)の方がリスクアレルを有さない高安動脈炎患者(AA, 1/20名, 5%)より有意に多数であり、1名あたりの動脈病変数もMLX遺伝子のリスクアレルを有する高安動 脈炎患者(GG, 4.5; AG, 4.1)の方がリスクアレルを有さない高安動脈炎患者(AA, 2.1)より有意に多数でした。さらに、最も広汎な血管病変を示す沼野分類タイプ5を示す比率もMLX遺伝子のリスクアレルを有する高安動脈炎患者(GG, 49%; AG, 28%)の方がリスクアレルを有さない高安動脈炎患者(AA, 15%)より有意に多数でした。In situ hybridization法にてマウス動脈におけるMLX遺伝子の発現分布を検討したところ、動脈分岐部における明らかな発現上昇は認められませんでしたが、大動脈弁において著明なMLX遺伝子の発現上昇を認めました。

In vitro実験の結果、MLX-Q139RタンパクはMLX-WTタンパクに比して転写因子MondoAとのヘテロ二量体を容易に形成すること、MLX-Q139RとMondoAの複合体はMLX-WTとMondoAの複合体よりも転写活性が有意に上昇することを発見しました。MLX-Q139Rを導入したヒト大動脈由来平滑筋細胞では、MLX-WTを導入したヒト大動脈由来平滑筋細胞よりも内在性の抗酸化物質阻害因子であると同時にインフラマソーム注1)形成を促進する作用があるTXNIP注2)ならびにインフラマソームの主要構成成分NLRP3のタンパク量が有意に増加していました。MLX-Q139Rを導入したマクロファージ様RAW264.7細胞では、MLX-WT

を導入したRAW264.7細胞よりも細胞増殖能、血管内皮細胞への接着能いずれも有意に上 昇していました。

【研究成果の意義】

SNP による MLX の Q139R 変異はその DNA 結合部位において荷電変化を生じますが、今回の検討によってMLX の転写活性に影響を与える機能獲得性変異であることが示唆されました。hASMCs や高安動脈炎患者由来の PBMCs においては、インフラマソーム構成因子の発現が Q139R 変異により上昇していたことなどの結果より、MLX 遺伝子の SNP による変異は TXNIP 発現上昇を介してインフラマソーム形成を促進していることが示唆されました。さらに、MLX の Q139R 変異によりマクロファージ様細胞の増殖や血管内皮細胞への接着能が亢進したことより、血管壁における炎症の惹起に関与していることが示唆されました。このように、本研究の結果より、高安動脈炎における MLX 遺伝子の Q139R 変異は、TXNIP の発現上昇を介して高安動脈炎の発症や病状進展に関与している可能性が示されました。これらの知見は、今後、高安動脈炎の新規診断・治療方法開発の進展に寄与することが期待されます。

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注 1). インフラマソーム:自然免疫を担う分子複合体で、細胞内異物に反応し、最終的に、IL-1βなどの炎症性 サイトカインを活性化する役割を担っている。

注 2). TXNIP:内因性抗酸化物質チオレドキシンの阻害因子である thioredoxin-interacting protein の略称。


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