News Release

慢性腎臓病の新たな治療標的としてエネルギー不全の感知障害を発見

慢性腎臓病の新たな治療法開発へ期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Failure to Sense Energy Depletion May Be a Novel Therapeutic Target in Chronic Kidney Disease

image: In a mouse model of CKD, metabolome analysis confirmed a decrease in AMPK activation in the kidneys despite a high AMP: ATP ratio, suggesting that AMP K did not sense energy depletion. Several uremic factors were shown to inactivate AMP K in vitro and in ex vivo preparations of kidney tissue. The specific AMPK activator A-769662, which bypasses the AMP sensing mechanism, ameliorated fibrosis and improved energy status in the kidneys of CKD mice, whereas an AMP analog did not. We further demonstrated that a low-protein diet activated AMPK independent of the AMP sensing mechanism, leading to improvement in energy metabolism and kidney fibrosis. view more 

Credit: Department of Nephrology,TMDU

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授と蘇原映誠准教授、菊池寛昭大学院生の研究グループは、九州大学生体防御学研究所 分子医科学分野 細胞機能制御学と東京医科歯科大学循環器内科との共同研究で、エネルギー恒常性を制御するAMPKのCKDにおける障害メカニズムを解明し、AMP非依存性に AMPK を活性化させることが CKDの治療につながることを発見しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、公益法人ソルトサイエンス研究財団、公益財団法人武田科学振興財団、公益財団法人万有生命科学振興国際交流財団の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌 Kidney International に、2018 年 11 月 16 日午前 9 時(世界協定時)にオンライン版で公開されます。

(図) 通常は AMP 上昇によるエネルギー不全状態を AMPK が感知してエネルギー状態を改善するが、CKDでは尿毒症物質などの影響により AMPK の AMP への感受性が低下し、腎機能障害が進行する。AMP 非依存性の AMPK 活性化を行う薬剤や低タンパク食が腎機能障害を改善させる新規治療法となる

【研究の背景】

慢性腎臓病(CKD)は世界的に有病率が極めて高い、進行性の疾患です。CKD は進行すると、末期腎不全となり透析療法を必要とするだけでなく、心疾患やサルコペニアなどの重大な合併症を引き起こすことが知られています。しかしいまだに有効な治療法がなく、降圧療法や食事療法などの保存的な治療に依存せざるを得ません。腎臓は老廃物除去や電解質制御など、体内の恒常性を維持するために大量のエネルギーを必要とする臓器の一つです。そこで研究グループは、腎臓のエネルギー代謝障害が CKD 増悪の原因と考え、エネルギー代謝障害を引き起こす原因、そしてその治療法を解明することを目指しました。

【研究成果の概要】

研究グループは CKD における腎臓内のエネルギー状態や尿毒素などの代謝物の蓄積を評価するため、CKD モデルマウスの腎臓組織のメタボローム解析を行い、代謝物の種類や濃度を網羅的に分析しました。ATP は生物のエネルギー源となる物質であり、エネルギーを放出して AMP になりますが、CKD の腎臓ではこの AMP/ATP の比率が上昇し、エネルギー状態が通常の腎臓と比較して悪化していることを確認しました。次

に研究グループは、エネルギーセンサーとして重要な役割を果たしている AMP 活性化プロテインキナーゼ(AMPK)に着目しました。AMPK は細胞内のエネルギーのセンサーとして重要な役割を担っており、細胞内のエネルギーが低下、つまり AMP/ATP 比が上昇していれば AMPK は活性化して ATP 産生などを促し、エネルギー状態を改善します。しかし、CKD の腎臓では AMP/ATP 比が上昇しエネルギー状態が悪化しているにも関わらず、CKD による尿毒素の蓄積や体内環境の酸性化などによって AMPK が活性化されない「エネルギー不全感知障害」をきたしていることが明らかになりました。そこで、AMP/ATP比の感知機構を介さずにAMPK を直接活性化させる薬剤である A-769662 を CKD モデルマウスに投与したところ、腎臓の AMPK を活性化させ、腎機

能障害進行をくい止めることを発見し、この薬剤が「エネルギー不全感知障害」を踏まえた新規の CKD 治療法となる可能性を示しました。また、低タンパク食は進行した CKD において有効な食事療法として古くから用いられてきましたが、その分子学的なメカニズムは不明なままでした。研究グループは低タンパク食がA-769662同様に、AMP/ATP比を介さずに AMPK を強く活性化させ、CKD における腎機能障害や線維化を抑制していることを発見しました。

【研究成果の意義】

本研究により、CKD 腎臓でのエネルギー代謝障害によって、腎機能障害が進行するメカニズムが明らかになりました。さらにその知見に基づいた AMP 非依存性の AMPK 活性化が、新たな CKD の治療法になり得ることが示されました。また、低タンパク食も AMP 非依存性に AMPK を活性化することから、食事制限が不要な CKD治療法につながる可能性が示されました。本研究が CKD 治療の進歩へ寄与することが期待されます。

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