日本の南にある海域の海底火山「明神礁カルデラ」の海底温泉(熱水噴出孔)周辺から新種の微小甲殻類を採集しました。この甲殻類の仲間は熱水噴出域にのみ生息する特殊な生物で、日本近海から初めて発見された新種になります。新種の可能性に気付いたのは研究に参加した大学生でした。「喜びと驚きが同時にあった感じだったと思います。また、『本当にそうなのかな?』と半分信じられないような不思議な思いもありました。」
日本近海には海底の火山活動などで熱せられた水が海中に吹き出す熱水噴出孔が多数存在します。これらの熱水噴出孔の近くでは熱水に含まれる化学物質を求めて多くの生物が生息していますが、特に深海の熱水噴出域では他の環境では見られない特異な生物が多く発見されています。
熊本大学の嶋永准教授らの研究グループは、深海の熱水噴出域に生息する生物の生態系に関する研究を行ってきました。熱水噴出域で生息する生物の謎を解明する研究の一環として、2012年から2014年にかけて伊豆諸島海域の海底火山カルデラ内の熱水噴出域を調査し、海底生物のサンプルを採取しました。
調査対象域は、東京から約420km南の海域にある明神礁カルデラ、明神海丘、ベヨネース海丘内の熱水噴出域(水深800~1400m)です。深海調査用の無人探査機を用いて調査・サンプル採取が行われ、サンプルを持ち帰り調査したところ、微小甲殻類であるカイアシ類のStygiopontius属が発見されました。
カイアシ類は、地球上で非常に多くの種類が生息しています。海中では主に植物プランクトンやその死骸を食べ、他の生物の餌になることから、生態系上重要な位置にいる生物です。中でもStygiopontius属は深海の熱水噴出域にのみ生息し、多くは大西洋中央や東太平洋の深海から見つかっていましたが、これまで日本近海からは見つかっていませんでした。
今回発見したStygiopontius属を当時熊本大学の学生だった瀬之口れいなさんらが調べたところ、既に存在が確認されているStygiopontius属の他の種との形態上の違いが明らかになり、新種として確認されました。新たなStygiopontius属は調査した海底火山の3箇所すべてにおいて雌雄揃って見つかっており、体長は雌で685~786マイクロメートル(1マイクロメートルは0.001ミリメートル)、雄で446~483マイクロメートルでした。非常に小さいため、微小生物の形態解析技術に長けた鹿児島大学の上野助教が形態解析を行い、記載論文(新種発表論文)として発表されました。
新種は瀬之口さんの名前にちなみ、「Stygiopontius senokuchiae」と名付けられました。瀬之口さんは今回の論文掲載にあたって、「卒業時にはまさか本当に名前が付くとは思っていなかったので、ただただ嬉しいです。コツコツと顕微鏡を覗きスケッチした甲斐がありました。」とコメントしています。
また、研究を主導した嶋永准教授は次のようにコメントしています。
「今後は、この種が深海の熱水噴出環境にどのように適応していったのか、また、どのようにして離れたところにある別の熱水噴出域に分布を広げていくのかを明らかにしていく研究が必要です。」
本研究成果は、科学ジャーナル「Zootaxa」に平成30年4月30日に掲載されました。
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[Source]
UYENO, D., WATANABE, H. K., & SHIMANAGA, M. (2018). A new dirivultid copepod (Siphonostomatoida) from hydrothermal vent fields of the Izu-Bonin Arc in the North Pacific Ocean. Zootaxa, 4415(2), 381. doi:10.11646/zootaxa.4415.2.8
Journal
Zootaxa