News Release

植物の根毛は細胞壁を硬くしてまっすぐ伸びていく

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

根毛における微小管の蛍光顕微鏡画像

image: 微小管は根毛の成長軸に平行して伸長する view more 

Credit: Dr. Masahiko Sato

根毛が細長くまっすぐ伸びるメカニズムを熊本大学等の研究者グループが明らかにしました。これまで根毛の成長に関する多くの研究が行われてきましたが、根毛の側面での成長抑制の分子メカニズムは解明されていませんでした。

植物の根に生える根毛は、根の表面積を大きくして土壌中の水や養分を吸収する役割があります。根毛の細長い管状構造を作るためには、先端部分が伸びると同時に根毛の側面部分の伸長を抑制しないと、風船上に膨らんで細長い管状構造を形成できません。この伸長抑制がないと、植物は管向上を維持したまま土中で成長することが出来ないのです。

研究グループはこれまで、シロイヌナズナを使った研究において、根毛の先端成長時の根毛先端には、リン酸化キナーゼ「PIP5K3」とその生成産物「PI(4,5)P2」が存在することを明らかにしていました。今回彼らは新たに、伸長中の根毛側面の細胞膜に別のリン酸化キナーゼFAB1とその生成産物PI(3,5)P2が局在することを見出しました。そこでPI(3,5)P2とPI(4,5)P2を蛍光標識するマーカータンパク質を同時発現するシロイヌナズナ形質転換体を作成して、両者の局在性を伸長中の根毛で同時観察しました。その結果、PI(3,5)P2は、根毛の側面に、そして、PI(4,5)P2は、根毛の先端にそれぞれ分かれて存在することが明らかになりました。このことは、伸長中の根毛の細胞膜にPI(3,5)P2とPI(4,5)P2で標識される明確に異なった領域が存在することを意味しています。

根毛の側面に存在するPI(3,5)P2の量を人為的に減少させると、寒天中で伸長させた根毛の形態は、PI(3,5)P2量が低下するとともに、太く、波打った形態になり、最終的にはぷっくりと膨らんだような状態に変化しました。この状態の根毛側面の機械的強度を原子間力顕微鏡で直接測定したところ、通常の根毛の半分程度の硬さしかありませんでした。根毛側面の硬さが低下した原因を調べるため、根毛の形態形成に関与する表層微小管の構造を調べたところ、表層微小管の繊維状構造が極度に断片化していることが明らかになりました。さらに、細胞壁に硬さを与えるはたらきのある二次細胞壁の成分であるキシランの存在量がPI(3,5)P2量の低下に応じて、極度に減少することも明らかになりました。

細胞骨格の制御に関わるROP(Rho-related GTPases from plants)ファミリータンパク質の発現を調べたところ、ROP2とROP10が根毛特異的に発現していることがわかりました。そこで、PIP5K3とFAB1との相互作用を調べたところ、PIP5PK3はROP2と、FAB1はROP10とそれぞれ特異的に相互作用していることがわかりました。

これらの結果を踏まえて、根毛側面のPI(3,5)P2量が表層微小管の構築と細胞壁の硬さを制御しているという仮定を導入した数理モデルを構築し、計算機シミュレーションしました。その結果、「寒天の抵抗で根毛の伸長方向とは逆の力がかかるとき、PI(3,5)P2量が低下していると、根毛が伸長方向にひしゃげることで根毛の形態が波打ったものになってしまう。」ということが明らかとなりました。

研究に携わった熊本大学の檜垣匠准教授は次のようにコメントしています。

「私たちの研究で、植物はPI(3,5)P2の作用により、根毛側面を強固にすることで、土中などで根毛をまっすぐ伸ばすことができることがわかりました。PI(3,5)P2量を人為的に操作することにより、側面強度を増強した根毛を持つ植物体を作出することで、栄養源が乏しい土壌中から効率よく栄養を吸収できる植物体を開発できる可能性があります。」

本研究成果は、科学ジャーナル「Nature Plants」に平成30年11月2日に掲載されました。

[Source]

Hirano, T. et al., 2018. PtdIns(3,5)P2 mediates root hair shank hardening in Arabidopsis. Nature Plants, 4(11), pp.888–897. Available at: http://dx.doi.org/10.1038/s41477-018-0277-8.

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