News Release

天然の青色発色団フィコシアノビリンの高速抽出法の開発に成功

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

A highly efficient and rapid extraction method of PCB from cyanobacterial cells

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<概要>

フィコシアノビリンとはシアノバクテリアの持つ天然の青色発色団であり、食用色素、抗炎症・抗酸化作用を持つ医薬品、生物の機能を制御する光スイッチなどへの応用が期待されています。フィコシアノビリンは、光合成タンパク質であるフィコシアニンに強固に結合しているため、その抽出には煩雑な操作や、長時間の化学反応が必要でした。豊橋技術科大学応用化学・生命工学系広瀬侑助教らの研究グループは、シアノバクテリアの細胞を高温高圧条件下でアルコール処理することで、フィコシアノビリンを高効率かつ高速に抽出する手法の開発に成功しました。また、本手法を応用することで、同位体元素によって標識されたフィコシアノビリンの調製や、光スイッチタンパク質にフィコシアノビリンを取り込ませることが可能であることも実証しました。本技術により、新しい機能性食品・医薬品の開発や、光スイッチの構造解明や機能改変につながることが期待できます。

<詳細>

シアノバクテリアとは、酸素発生型の光合成を行う原核生物であり、光合成の集光アンテナタンパク質として、フィコビリソームを持ちます。フィコシアニンは、フィコビリソームを構成する色素タンパク質であり、天然の青色食用色素としてアイスクリーム等に添加されるなど、産業利用が進んでいます。フィコシアニンは、青色を呈するフィコシアノビリン発色団が、強い結合(共有結合)によって無色のタンパク質に繋がれた構造を持ちます。このうち、タンパク質部分は酸性や高温の条件で変性しやすいことから、フィコシアニンの用途は限られていました。一方で、フィコシアノビリンは高温や酸性条件に強く、フィコシアノビリンをタンパク質から効率よく遊離させることができれば、優れた青色食用色素としての利用が期待できます。ところが、これまでのフィコシアノビリンの抽出法には、手間のかかるフィコシアニンの精製や、10時間以上のアルコール処理によるフィコシアノビリンの遊離反応を必要とするなど、多くの課題がありました。

豊橋技術科学大学 応用化学・生命工学専攻 博士前期課程1年 加茂尊也、応用化学・生命工学系 浴俊彦教授、広瀬侑助教らのグループは、シアノバクテリア細胞からフィコシアノビリンを簡便かつ高速に抽出する方法を確立しました。この方法は、シアノバクテリア細胞を常温常圧の条件でアルコール洗浄し、クロロフィルなど、非共有的に弱く結合した発色団を除きます(図1)。続いて、窒素ガス下かつ高温(125℃)高圧(100bar)の条件で、エタノールで5分間の抽出処理を3回、合計15分間の処理を行うことで、フィコシアノビリンがタンパク質から遊離し、高速に抽出できました(図1)。この方法は、食品添加物として利用可能で、蒸留によってリサイクル可能なエタノールを利用しているため、産業応用への利用が容易です。また、フィコシアノビリンの抽出効率も、既存の方法と同等でした。

フィコシアノビリンは抗炎症・抗酸化作用といった薬理作用を持つことが報告され、経口摂取による人への応用も期待され、動物実験が進められています。抽出したフィコシアノビリンを摂取すれば、同じ量のシアノバクテリア細胞の粉末を摂取した場合と比べて、重量あたりのフィコシアノビリン摂取量を約143倍高めることができると試算できました。また、精製したフィコシアニン粉末を摂取した場合と比べても、約25倍に高めると試算できました。そのため、本技術を用いることで、より高濃度のPCBを含有する食品や医薬品の開発につながることが期待できます。

また、フィコシアノビリンは、生体機能を制御する光スイッチタンパク質の発色団として、合成生物学の分野でも利用されています。本論文では、シアノバクテリアの培養液の組成を改変することで、同位体元素(13Cおよび15N)によって標識したフィコシアノビリンを抽出できることを実証しました。同位体によって標識したフィコシアノビリンを利用すれば、振動分光法や核磁気共鳴分光法といった様々な手法によって光スイッチの構造機能を詳細に調べることが可能となります。さらに本論文では、フィコシアノビリンを光スイッチタンパク質に取り込ませ、まったく正常な分光特性を示すことも確認しました。したがって、本論文で確立した技術は、光スイッチの機能の解明や、その性能の改変に貢献できます。

<今後の展望>

今後は、フィコシアノビリンを利用した新しい青色系着色料、機能性食品や医薬品の開発が期待できます。また、同位体標識したフィコシアノビリンを用いた光スイッチの構造機能の解明と、その性能の改変に取り組んでいくことも重要です。

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<文献情報>

Pressurized liquid extraction of a phycocyanobilin chromophore and its reconstitution with a cyanobacteriochrome photosensor for efficient isotopic labeling.

Takanari Kamo, Toshihiko Eki, and Yuu Hirose

Plant and Cell Physiology, 2020 in press.
DOI: 10.1093/pcp/pcaa164

本研究は、文部科学省科研費基盤研究(C)19K06707「補色順化におけるフィコビリソームの構造変化の多様性の解明(代表者:広瀬侑)」、公益財団法人日揮・実吉奨学会、一般財団法人イオン工学振興財団の研究助成による支援を受けて行われました。


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