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共存困難とされる在来近縁植物ツユクサとケツユクサの新たな共存メカニズムを提案

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

共存困難とされる在来近縁植物ツユクサとケツユクサの新たな共存メカニズムを提案(図1)

image: 図1. 同所的に咲くツユクサとケツユクサ view more 

Credit: Kobe University

神戸大学大学院人間発達環境学研究科、博士後期課程・日本学術振興会特別研究員の勝原光希氏と丑丸敦史教授は、これまでの理論では共存困難であるはずの近縁植物種ツユクサとケツユクサが、野外で競争関係を維持しながら共存していることを発見しました。

これまでミツバチなどが他種の花粉を運んでくることにより種子生産が減少する繁殖干渉※1によって、よく似ている種は共存が難しいと考えられており、現時点で共存する在来種間では繁殖干渉が存在しないものと考えられていましたが、本研究では詳細な野外調査と栽培株を用いた人工授粉実験を組み合わせることで、ツユクサとケツユクサの間に繁殖干渉が存在し、また両種ともにその繁殖干渉の悪影響を自家受粉※2という仕組みで緩和することを発見しました。

この結果は、これまでの共存理論に対し新しい視点を与えると共に、植物の持つ自家受粉という仕組みの意義についても新たな示唆を与えるものです。

本研究成果は、5月2日に、英科学誌「Functional Ecology」に掲載される予定です。

【ポイント】

    • 植物は花粉を運んでくれる送粉者(昆虫や鳥)に繁殖を依存しており、複数の植物が同じ送粉者を同時に利用する場合には、他種の花粉がめしべに運ばれることによる繁殖干渉(種子生産の減少)が発生し、共存が困難になる。

    • ツユクサとケツユクサはしばしば非常によく似た花を同時期に同じ場所で咲かせ、繁殖干渉によって互いに悪影響を与え合っている。

    • 本研究は、一つの花に雌しべと雄しべを持つ両性花植物の自家受粉という仕組みが繁殖干渉の悪影響を軽減することを示し、自家受粉を行えることがツユクサとケツユクサの共存に重要である可能性を示した。

    • この研究は、似た花を持つ植物がいかにして同所的に共存しているのかを解明することに新たな視点を与えると共に、植物の繁殖システムの多様化を説明する新機構を提案するものである。

【研究の背景】

植物の多種共存機構の解明は、古くから多くの研究者の興味を集めてきました。送粉者を共有する植物が同時・同所的に開花するとき、送粉者を介した繁殖干渉が共存を困難にすると考えられています。これは、他種の花粉がめしべに付着することで、花粉管の競争等によって種子の生産量が低下するためです。

田畑や道端に普通に生育しているツユクサ科植物であるツユクサとケツユクサは、非常によく似た花を咲かせ同じ送粉者に訪花されるにも関わらず、同時期に隣り合って開花しており、既存の理論ではその共存を説明できませんでした。

【研究の内容】

本研究では、神戸市北区のツユクサとケツユクサが同所的に開花している生育地において、送粉者が両種の花間を行き来するか、他種の花の量が増えると種子生産量が減少するかを詳細に調査しました。その結果、ミツバチやハナアブなどの送粉者はツユクサとケツユクサの花を見分けておらず、両種ともに他種の花数の増加に伴って種子生産量が減少することが明らかになりました。このことは、ツユクサとケツユクサの間で双方向的な繁殖干渉が発生していることを示しています。また、ツユクサの方がケツユクサよりも相手からの悪影響を受けにくいということも示唆されました。これは、調査地域においてツユクサがケツユクサよりも優占して生育しているという事実とも整合性があります。

さらに本研究では、野外調査と人工授粉実験を組み合わせ、開花の際に行われる自家受粉が繁殖干渉の悪影響を軽減することを発見しました。他種の花数が多く、繁殖干渉の悪影響を強く受けうる場合にも、自家受粉によってツユクサとケツユクサはある程度は種子を生産することができます。また、ツユクサはケツユクサよりも自家受粉によって多くの種子をつけることができ、このことが繁殖干渉の非対称性(ツユクサはケツユクサよりも繁殖干渉の悪影響をうけにくい)を生んでいると考えられます。

これらの結果から、ツユクサが繁殖干渉によってケツユクサを駆逐してしまうことが期待されますが、現実にはツユクサとケツユクサの両方が野外では生育しています。筆者らは、多くの場合でツユクサに優占されるケツユクサが、局所的にケツユクサの多く開花する生育地ではツユクサよりも優位になること(図2:ケツユクサが7割以上になる場所では、ツユクサより多く種子を残すことができる)、たとえ周囲をほぼツユクサに囲まれていた場合でも自家受粉によって一部種子を残すことができること(図2:約3割)が、ツユクサとケツユクサが繁殖干渉という激しい競争関係を保ちながら共存できていることに重要な役割を果たしていると考えています。

【今後の展開】

自家受粉は、花に訪れる送粉者が不足しているときに確実に種子を残すための仕組みとして進化してきたと考えられてきました。本研究は、その自家受粉の仕組みが、送粉者が多くいる場合にも、他種の花粉という種子生産を邪魔する花粉が運ばれてくる場合に、その悪影響を軽減するよう機能しうることを示唆しています。さらに自家受粉が、これまで困難であると言われてきた送粉者を共有する植物の共存を説明する可能性を示しました。これらの結果は、植物の多種共存機構の解明という生態学の中心課題に大きな進展を与えると共に、自家受粉の進化背景という進化学の課題にも新たな視点を与えるものです。

【用語解説】

※1 繁殖干渉: 繁殖成功度を低下させる種間相互作用。植物の場合では、他種の花粉が柱頭につくことによって生産できる種子が減少する。個体数が多ければ多いほどより強い悪影響を与えるという、頻度依存性があることが知られている。

※2 自家受粉: 同じ花のおしべとめしべが接触し、送粉が行われること。一部の植物では、送粉者を伴わずに能動的におしべとめしべを接触させる仕組みを持つことが知られており、それらは自動自家受粉と呼ばれる。

【謝辞】

本研究はJSPS科研費16K07517及び17J01902の助成を受けたものです。

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