新しい2つの研究によって、コムギを死に至らしめる「黒さび病菌」として知られている真菌がコムギを攻撃する際に分泌するペプチドが特定された。これはこの病原菌と宿主植物との進化的軍拡競争において重要な役割を果たしている。コムギ黒さび病菌Puccinia graminis f. sp. triticiは世界的にコムギを脅かしている真菌で、他の菌であればコムギを守れる多数の耐病性遺伝子でもこの菌は阻止できない。植物が病原菌の攻撃をかわすことができるのは、植物の免疫系が侵入者である病原菌の分泌するペプチドを検知したときである。しかし、黒さび病菌のゲノムは反復配列など複雑なため、今までは黒さび病菌が分泌するペプチドを特定することは困難であった。今回、ひとつの研究でAndres Salcedoらは耐性コムギに感染できる特に悪性の病原菌株の突然変異型を特定し、そこから黒さび病菌のAvrSr35遺伝子に注目した。この病原菌遺伝子はコムギへの感染中に大量に増加するペプチドをコードするとSalcedoらは報告している。Salcedoらは一連の実験を通して、このペプチドの変異型はコムギの免疫系による検出を逃れられることを示し、この特別な感染型の黒さび病菌が宿主植物との進化的軍拡競争に勝つ仕組みを明らかにした。
別の研究ではJiapeng Chenらがもう一つの菌性ペプチドAvrSr50を特定した。これはコムギの免疫受容体Sr50に結合する。この関係は、他の種類の植物でSr50を発現し、その植物をAvrSr50を発現する病原菌株に接触させることよって、菌への感染中を通してAvrSr50の分泌のタイミングを決定するようにさらに働くことをChenらは確認した。関係するPerspectiveでMatthew J. MoscouとH. Peter van Esseがこれらの研究結果を特別に取り上げている。
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