News Release

前後左右全ての身体近傍空間における多感覚促進効果

触覚検出はさまざまな方向から接近する音によって促進される

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

実験の模式図

image: バーチャルな音源が前後左右から実験参加者に対して接近あるいは後退しました。実験参加者は,音とは関係なく,胸につけられたバイブレーターの振動を正確に素早く検出しました。前後左右いずれの方向からでも,音が接近してきて身体の近くにあるときには,振動の検出が早くなりました。 view more 

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身体近傍空間(Peripersonal space; PPS)は,身体の近くにある空間で,自分の手が届く範囲,あるいは他者から容易に接触される範囲と定義されます。この空間は多感覚促進など特殊な機能が存在します。豊橋技術科学大学と慶應義塾大学,東京大学の研究チームは,この身体近傍空間において生じる聴覚と触覚の多感覚統合を,前後左右から接近あるいは後退する音を用いて調べました。触覚刺激は接近してくる音源が身体の近くにあるときに遠くにあるときよりも素早く検出され,その効果は前後左右全ての方向で見られました。しかし,後退する音ではその効果は見られないか弱いものでした。したがって,身体近傍空間における多感覚促進処理は,接近音に対して方向に依存せず存在すると言えます。この研究成果は,2021年5月28日にScientific Reports誌に掲載されました。

人や動物にとって,今,あるいはすぐに起きるであろう脅威を示す感覚情報を身体近傍空間(PPS)で検出することは重要です。しかし,このPPSの形状や広がりについて詳しくは分かっていません。

従来の研究では,前後の比較や左右の比較が行われていましたが,本研究チームは,前後左右の4方向の身体近傍空間の特性を1つの実験で同時に計測しました。

人は後ろも含めてあらゆる方向の音を聴くことができます。そこで,実験では接近あるいは後退する音を課題とは関係の無い刺激として用いました。実験参加者の課題は,胸のバイブレーターに提示された触覚刺激を正確にできるだけ早く検出することでした。触覚刺激が提示されるタイミングは,移動する音の位置に対してさまざまに操作されました。なお,実験参加者は目隠しをされて実験を行いました。

実験の結果,音が接近する時には,どの方向の場合でも音の位置が身体に近い場合に遠い場合よりも素早く触覚刺激を検出できました。ゆえに,実験参加者は身体の近くでは触覚刺激と聴覚刺激を統合していたと言えます。しかし,この多感覚促進効果は,後退する音では見られないか,弱くなりました。つまり,触覚刺激の検出は,課題とは関係ない聴覚刺激が接近する時のみ全方向で促進されることが明らかになりました。

これらの結果から,身体近傍空間はほぼ円状に私たちの胴体の周りに広がっていることが示唆されます。それは,人が身体近傍空間の中では,接近音の情報を自動的に利用して,あらゆる方向から来る可能性のある脅威を検出できることを意味します。

研究チームは前後左右の方向の身体近傍空間を調べましたが,まだ上下の方向には手をつけていません。聴覚情報は上下も含めた三次元空間で利用可能であり,脅威もまた三次元空間のいたるところから来る可能性があります。したがって,今後は三次元空間での身体近傍空間を調べることが期待されます。

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Funding agency: 本研究の一部はJST ERATO JPMJER1701(稲見自在化身体プロジェクト)および科研費(JP20H04489)の補助を受けて実施されました

Publication: Matsuda, Y., Sugimoto, M., Inami, M. et al. Peripersonal space in the front, rear, left and right directions for audio-tactile multisensory integration. Scientific Reports, 11: 11303 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-90784-5


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