News Release

発達障害の新規遺伝子を同定

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

図1

image: A: 実験概略図。標的遺伝子と神経細胞全体を可視化するために、GFP蛍光タンパク質を導入する。B: 各標的遺伝子をそれぞれ導入し、生後21, 22日目から2日間における樹状突起スパインの動態を追った。矢印は新しくできたスパイン、矢頭は消失したスパイン。C: Bの結果を定量化したもの。D: Ndnを導入したときに形成されるスパインの形状を分類したデータ。Ndnを導入すると、未成熟型の1つであるFilopodiaタイプが顕著に増える。 view more 

Credit: Takumi et al., Nature Communications, 2021

神戸大学大学院医学研究科 生理学分野の内匠 透教授(理化学研究所生命機能科学研究センター客員主管研究員)、玉田 紘太助教らの研究グループは、コピー数多型*1と呼ばれる染色体異常*2を有する自閉症モデルマウスの主たる原因遺伝子(Necdin, NDN)を明らかにしました。

今後、NDN遺伝子の分子メカニズムを解明することで、自閉症をはじめとする発達障害の新たな治療戦略の創出が期待されます。

この研究成果は、7月1日付(現地時間)で、Nature Communicationsに掲載されました。

ポイント

  • 自閉症モデル動物である15q dupマウスにおいて、シナプス*3表現型をもとにしたスクリーニングにより、Ndnを原因遺伝子として同定した。
  • Ndn遺伝子は幼少期におけるシナプス動態を制御している。

研究の背景

自閉症(自閉スペクトラム症)は患者数が急増しているにもかかわらず、未だ未解明な部分の多い発達障害です。その原因は遺伝的要因と環境的要因に分けられます。遺伝的要因の中で、特定のコピー数多型、例えば染色体15q11-q13領域の重複などが自閉症患者で見られることが知られています。15q11-q13領域では、母性由来染色体が重複しているケースと父性由来染色体が重複しているケースに分けられ、母性由来染色体の重複はUbe3a遺伝子が重要であることが分かっている一方で、父性由来染色体の重複はどの遺伝子が重要であるかは分かっていませんでした。

本研究チームはこれまでに15q11-13領域の重複をマウスでモデル化(以下、15q dupマウス)することに成功し、自閉症様の行動学的異常、幼少期における樹状突起スパイン*4の動態異常などの数々の異常が父性由来染色体重複に見られることを見出してきました。しかし、本領域には多数のnon coding RNAや、タンパク質をコードする遺伝子が含まれるため、どの遺伝子が自閉症様行動に対して重要であるかは分かっていませんでした。

研究の内容

15q dupマウスは、6Mbにも及ぶ領域が重複していることから、非常に多数の遺伝子を含んでいます。前研究により、母性由来染色体の重複が行動学的異常を誘発しないことが分かっていたことから、2Mb近くが対象から除外されました。残りの4Mbについて、本研究ではまず1.5Mbの重複マウスを新たに作製し、その行動学的異常を調べました。その結果、1.5 Mbの重複マウスでは自閉症様の行動学的異常は認められませんでした。このことから、対象となった1.5 Mbは除外され、残りはタンパク質をコードする3遺伝子となりました。

次にこれら3遺伝子を子宮内電気穿孔法*5で大脳皮質に導入し、幼少期におけるスパインの動態(2日間における数の増減)を二光子顕微鏡*6で調べたところ、Ndn遺伝子を導入した際に顕著にスパインの数が増加することが分かりました(図1A-C)。また、このスパインの形態的分類を行うと、未成熟なスパインがほとんどであったことから、Ndn遺伝子は幼少期におけるスパインの形成と成熟度の調節を行っていることが分かりました(図1D)。

次に15q dupマウスからNdn遺伝子のゲノムコピー数を正常化したマウス(15q dupΔNdnマウス)をCRISPR-Cas9法*7にて作製し、これまでに15q dupマウスで認められたスパインの動態異常や抑制性シナプスの減少などが改善されたことを示しました(図2)。

最後に元々の15q dupマウスで認められた、新奇環境下における不安度の上昇、社会性の低下、固執性の上昇などが15q dupΔNdnマウスにおいて認められるかを調べました。ほとんどの行動試験の結果で、社会性、固執性の行動学的異常が改善されたことを示しました(図3)。

今後の展開

本研究でNDN遺伝子が15q dup自閉症モデルマウスにおいて、自閉症様行動だけでなく、シナプス動態や大脳皮質における興奮性/抑制性のバランスなどにも重要であることが明らかとなりました。今後NDN遺伝子の機能を明らかにし、その機能を人為的に制御、あるいは下流因子を同定・制御することで、将来的に自閉症をはじめとする発達障害発症メカニズムの解明や、新たな治療戦略を作り出すことが期待されます。

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用語解説

*1 コピー数多型: ゲノム上の領域が重複したり、欠損したりしてコピー数に変異を起こす染色体異常。通常は2倍体のため2コピーであり、これが3コピーになったり1コピーになったりする。

*2 染色体異常: 染色体は細胞の核の中にあり、遺伝子が記録されている構造体。特定の染色体領域では重複(2倍になる)、欠失などの異常が自閉症者でよく認められる。

*3 シナプス: 神経細胞(ニューロン)間などで形成されるシグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位。

*4 樹状突起スパイン: 興奮性神経細胞の樹状突起上に存在し、シナプス入力を受けている部分。

*5 子宮内電気穿孔法: 脳内に外来のDNAを導入する方法の一種で、子宮の外側からDNAを注入し、電流を流すことでDNAを細胞内に取り込ませることが可能となる。

*6 二光子顕微鏡: 高出力のレーザーを光源として、生きたままマウスの脳を観察することができる顕微鏡。本研究では、2日間におけるスパインの変化を追うために用いた。

*7 CRISPR-Cas9法: ゲノム中で任意の領域を切断、改変できる技術。2020年ノーベル化学賞の受賞対象。本研究ではNdn遺伝子をゲノム上から削除するために用いた。

謝辞

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(S)、新学術領域研究「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」、武田科学振興財団研究助成などによる支援を受けて行いました。

論文情報

タイトル: “Genetic dissection identifies Necdin as a driver gene in a mouse model of paternal 15q duplications”

DOI:10.1038/s41467-021-24359-3

著者: Kota Tamada, Keita Fukumoto, Tsuyoshi Toya, Nobuhiro Nakai, Janak R Awasthi, Shinji Tanaka, Shigeo Okabe, Francois Spitz, Fumihito Saitow, Hidenori Suzuki, Toru Takumi

掲載誌: Nature Communications


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