脳内で鉄含有酵素を阻害する化合物は、脳出血後の回復を促進することが、げっ歯類の新たな研究から示され、この化合物は予想外の機序で作用する。破裂した血管から放出される全ての遊離鉄と結合するのではなく、この化合物は鉄含有酵素の小ファミリーを標的として、様々な生理過程(ミトコンドリア機能、細胞シグナル伝達、細胞分裂など)にとって必要な要素である全鉄に影響を及ぼさない。破裂した血管により引き起こされ、死亡や障害をもたらし得る脳内の出血である脳出血は、有病率が上昇している。その原因で頻度の高いものには、脳卒中、鈍的外傷、抗凝固剤の使用などがある。破裂した血管から漏出した血液細胞は分解し、周囲組織に障害を及ぼす鉄などの毒性産物を放出することがある。鉄キレート剤として知られる、鉄と結合して鉄を体内から除去する化合物は、出血時に脳を保護することが示されている。しかし、これらの化合物は、健康な細胞が生存のために鉄を必要とする、脳内の他の部位でも鉄と結合するため、幅広い副作用をもたらし得る。患者の治療に用いるための鉄キレート剤の開発における課題は、鉄に依存する細胞機能を損なうことなく、鉄の蓄積を減少させることである。今回、Saravanan Karuppagounderらは、選択制の高い鉄キレート剤を同定し、adaptaquinと名付けた。細胞ベースの一連の研究において、研究者らは、この化合物が低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(hypoxia-inducible factor prolyl-hydroxylase:HIF-PHD)と呼ばれる、鉄を含有する酸素検知酵素のファミリーを阻害すると同時に、重要なこととして、ニューロンを酸化ストレスから保護する遺伝子を活性化させることでニューロンを保護することを示した。研究者らは、一連の分子ツールと薬理学的ツールを用いて、in vitroとin vivoの両方で、adaptaquinによるHIF-PHDの阻害が、脳出血イベント後に神経保護作用を有する可能性があることを示した。詳細に調べたところ、adaptaquinは脳内の鉄に対して、すなわち予想外にも酸素検知酵素の標的に対してほとんど影響を及ぼさないことが明らかになった。その代わりadaptaquinは、ニューロン内で細胞死を引き起こすATF4という蛋白質を阻害することで作用するようである。これらの所見を合わせると、今後adaptaquinを脳出血の治療薬として開発できる可能性が支持される。
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Journal
Science Translational Medicine