News Release

遺伝性の腎炎:アルポート症候群の 病態進行を抑制するキータンパク質を解明!

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

概要説明)

熊本大学大学院生命科学研究部の甲斐広文教授らの研究グループが、癌抑制遺伝子として知られるp53が遺伝性の腎疾患であるアルポート症候群(Alport Syndrome)の病態進行を抑制する重要なタンパク質であることを解明しました。

また、アルポート症候群の病態進行時ではp53タンパク質の量が減少していることも示され、アルポート症候群の新規治療法の開発に有力な手がかりとなることが期待されます。

(説明)

遺伝性疾患とは、遺伝子の変異により発生する疾患の総称です。直接的な根本治療法として原因遺伝子に対する遺伝子治療※1が長年試みられてきましたが、その多くは未だ臨床的な有用性を示すには至っていません。また、遺伝子疾患の多くは小児期より重篤な病態が生じることから治療法の開発が強く求められています。

その中で、近年のiPS細胞作成方法の確立により見出された患者由来細胞の遺伝子修復、組織再生、そして自家移植という治療過程は遺伝性疾患の治療にとって大きな光明となるものの、技術確立までの期間や、予想される莫大な治療費等の問題が残っています。

遺伝性疾患の多くは進行性であり、生後まもなくは症状が現れないのに対し、成長や生活環境によって次第に病態が出現します。

甲斐教授らはこの点に着目し、原因遺伝子に対する遺伝子治療のみではなく、病態進行を開始させるステップを解明し、それを標的とすることで遺伝性疾患の病態進行を抑制することを目的とし研究を行ってきました。

その結果、進行性の遺伝性腎疾患であるアルポート症候群において、癌抑制遺伝子として知られるp53が腎臓の病態悪化を食い止める重要な機能を担っていることを発見しました。すなわち、p53が腎臓において重要な細胞であるポドサイト※2(podocyte)の形態維持を担っており、アルポート症候群の病態進行を抑制する重要なタンパク質であることが明らかになりました。また、p53タンパク質はアルポート症候群の病態進行時において活性が有意に低下していることから、p53の機能回復は、アルポート症候群の新規治療方法の開発に有力な手がかりとなり得ることが示唆されました。

本研究成果は、腎臓研究のトップジャーナルである国際誌Journal of American Society Nephrologyの1月号に掲載され、表紙にも採用されました。

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※1 遺伝子治療:遺伝子の異常を修復したり修正したりすることで減らしていく治療法。代表的なものに、特定の遺伝子が欠損したり異常が起きたりしている患者から採取した細胞に、正常な遺伝子を導入して細胞を増やし、患者の体内に戻す方法がある。

※2 ポドサイト:血液から尿を濾過する機能を持つ細胞。

Podocyte p53 Limits the Severity of Experimental Alport Syndrome

Ryosuke Fukuda, Mary Ann Suico, Yukari Kai, Kohei Omachi, Keishi Motomura, Tomoaki Koga, Yoshihiro Komohara, Kosuke Koyama, Tsubasa Yokota, Manabu Taura, Tsuyoshi Shuto, and Hirofumi Kai

Journal of American Society Nephrology

【お問い合わせ先】
熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)
遺伝子機能応用学分野
担当:教授 甲斐 広文
電話:096-371-4405
e-mail:hirokai@gpo.kumamoto-u.ac.jp


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