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体細胞に多能性を獲得させているのは「リボソーム」であることが判明

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

形成された細胞塊

image: ヒト皮膚細胞へのリボソームの取り込みによって、細胞塊が形成される。 view more 

Credit: Associate Professor Kunimasa Ohta

2012年、ヒト皮膚細胞が乳酸菌を取り込むと多能性を獲得することが日本の研究グループによって発見されました。今回同グループは、乳酸菌を取り込んだ時に体細胞を多能性幹細胞に変える機能を引き起こす物質が、タンパク質合成装置として知られているリボソームであることを世界で初めて明らかにしました。

古くから「脊椎動物の細胞分化を終えた皮膚細胞や神経細胞は、他の細胞種に分化転換しない」と言われてきましたが、核移植実験(ジョン・ガードン卿)やiPS細胞の樹立(山中伸弥教授)により、最終分化を終えた細胞にも分化の可能性が残されていることが明らかにされました。細胞が初期化されて、様々な細胞になる可能性を持つことを、細胞の初期化機能と言います。iPS細胞は4つの山中因子を細胞に強制発現させて初期化した多能性細胞です。人工的に作製されたもので、私たちの身体には存在しません。

熊本大学の研究グループでは、私たちの身体がもともと持つ初期化機能を研究しており、2012年、生きた乳酸菌(Lactobacillus acidophilus)をヒト皮膚細胞に取り込ませ、神経細胞や軟骨細胞に分化誘導させることに成功しました。真核生物は約20億年前に誕生したとされていますが、この研究は、その誕生を説明した「細胞内共生説」にヒントを得ています。「細胞内共生説」は、真核生物の細胞は細菌の感染によりミトコンドリアなどの細胞内小器官を獲得したという説です。研究グループは、細胞は絶えず様々な細菌の感染に晒され、その細胞内物質を細胞質や核内に取り込むことで、多様な性質を有する細胞を進化させてきたと仮定していました。

研究グループは、ヒト皮膚細胞にリボソームを取り込ませると新たな細胞の塊を形成することを確認し、乳酸菌由来の初期化物質がリボソームであることを世界に先駆けて発見しました。リボソームは、ほとんど全ての生物の細胞内に存在し、RNA情報からタンパク質を合成する細胞小器官です。その構造は、大小2つのサブユニットから構成され、50種類以上のタンパク質と少なくとも3種類のRNAからなる複合体です。また、乳酸菌由来のリボソームに限らず、酵母やヒト細胞由来のリボソームでも同様の初期化活性を持つこともわかりました。

リボソームを構成する個々のタンパク質は、多種多様な機能を有することが知られています。例えば、リボソームタンパク(L38)の遺伝子欠損マウスでは、肋骨が1本多くなる現象が報告されています。つまり、リボソームを構成するタンパク質の中に、細胞の初期化に関わるタンパク質が存在することが予想されます。本研究成果は、細胞内在性リボソームによる細胞初期化現象が、単純な単細胞生物から複雑な多細胞生物への進化を担ったことを示唆するもので、生物種を超えた発生・進化学に大きなインパクトを与えることが期待できます。

研究を主導した太田訓正准教授は次のようにコメントしています。

「研究ではリボソームによる初期化された細胞は、細胞増殖が停止することも明らかにしました。リボソームによる初期化細胞作製法をがん細胞に応用することで、がん細胞の増殖を停止して、そのがん特性を転換できることが期待できます。将来的にはリボソームによる安心・安全な抗がん剤を開発できるよう研究を進めていきます。」

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本研究成果は、科学ジャーナル「Scientific Reports」に平成30年1月26日掲載されました。

[Source]

Naofumi Ito, Kaoru Katoh, Hiroko Kushige, Yutaka Saito, Terumasa Umemoto, Yu Matsuzaki, Hiroshi Kiyonari, Daiki Kobayashi, Minami Soga, Takumi Era, Norie Araki, Yasuhide Furuta, Toshio Suda, Yasuyuki Kida, and Kunimasa Ohta. (2018). Ribosome Incorporation into Somatic Cells Promotes Lineage Transdifferentiation towards Multipotency. Scientific Reports. doi: 10.1038/s41598-018-20057-1


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