炭素からなる結晶にグラファイトやダイヤモンドといったさまざまな種類の結晶が存在するなど、単成分からなる固体が複数の状態(結晶相)を持つ、いわゆる結晶多形の存在はよく知られている。一方、等方かつ一様でランダムな構造を持つと考えられてきた液体には、1つの状態(液体相)しか存在しないと考えられてきた。単成分液体に2つ以上の液体相が存在し、その液体間に一次相転移が存在するという液体・液体転移現象は、従来の液体の概念を覆す新しい相転移現象として大きな注目を集めている。しかし、これまでにいくつかの物質でその存在を示唆する有力な手掛かりが得られているものの、実験的困難さから、その存在の有無を巡っては議論が続いてきた。液体・液体転移の存在を実証するためには、転移過程における液体特有の性質であるダイナミクスの変化に迫ることが極めて重要である。このたび東京大学生産技術研究所の田中 肇 教授、村田 憲一郎 元特任研究員(現北海道大学・低温科学研究所・助教)の研究グループは、実時間誘電緩和スペクトル測定により、常圧下で液体・液体相転移を示す亜リン酸トリフェニルという物質の転移過程における分子ダイナミクスの変化を初めて明らかにすることに成功した。さらに、転移のタイプと分子ダイナミクスの変化の仕方の関係を調べることで、分子ダイナミクスの変化が、液体中に生成される局所安定構造の割合により制御されていることを突き止めた。液体は固体、気体と並び物質の三態の1つであり、幅広い物質群に存在する最も基本的かつ普遍的な物質の存在様式である。本研究は、単成分液体における液体・液体転移の起源に迫るとともに、液体の最も顕著な特性であるダイナミクスが、液体・液体転移によりどのような影響を受けるかについて新しい知見を提供した点にインパクトがある。
###
本成果は2019年3月25日(米国東部夏時間)の週に「Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America」のオンライン速報版で公開される。
Journal
Proceedings of the National Academy of Sciences