News Release

多発性骨髄腫増殖に関わる新たなエピゲノム制御機構

KDM5Aを標的にした治療法開発に期待

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

KDM5 inhibitor suppressed myeloma cell growth

image: The ability of myeloma cells to proliferate was tested in a myeloma mouse model. Results show that the KDM5 inhibitor impaired myeloma cell proliferation. view more 

Credit: Associate Professor Hiroto Ohguchi

熊本大学の研究グループは、3大血液がんのひとつである多発性骨髄腫におけるヒストン脱メチル化酵素KDM5Aの機能を解析し、KDM5Aが骨髄腫細胞の増殖を促す仕組みを解明しました。また、新規KDM5阻害剤を開発し、KDM5阻害剤が骨髄腫細胞の増殖を抑制することを骨髄腫マウスモデルで明らかにしました。今後、KDM5Aを標的とした新しい治療法の開発に発展していくことが期待されます。

多発性骨髄腫の予後は、新しい治療薬の導入により年々改善していますが、未だに治癒は見込めません。そのため、このがんの更なる病態解明と治療薬の開発が求められています。多発性骨髄腫を含むがんの分子病態にはゲノム変化のみでなく、後天的なエピゲノム変化が深く関わっています。骨髄腫細胞ではエピゲノム制御因子KDM5ファミリータンパク質が高く発現していますが、その機能は明らかではありませんでした。

そこで、研究グループは、骨髄腫細胞におけるKDM5ファミリータンパク質の役割を明らかにするため、ヒト骨髄腫細胞株で遺伝学的操作を用いてKDM5の発現量を抑制し、その影響を調べました。すると、KDM5ファミリーのなかでも、特にKDM5Aが強く細胞増殖に影響を与えていたため、その分子機序の解析を行いました。さらに、新規KDM5阻害剤を開発して、その有効性を骨髄腫患者細胞、骨髄腫マウスモデルで検証しました。

KDM5Aの発現を遺伝学的に抑制、もしくは薬理学的にKDM5を阻害したところ、骨髄腫細胞の増殖が阻害されました。さらに、免疫不全マウスにヒト骨髄腫細胞株を移植した骨髄腫マウスモデルを用いて、生体内でも新規KDM5阻害剤が骨髄腫細胞増殖を抑えることを証明しました。機能解析により、KDM5Aは骨髄腫発症および増殖において重要な転写因子であるMYCと協調してMYC 標的遺伝子の発現を促進していることを見出しました。MYC標的遺伝子の転写開始点近傍では元々高いレベルのヒストンメチル化(H3K4me3)が認められましたが、この修飾レベルはKDM5Aを抑制することでさらに上昇していました。この結果は、必要以上に過剰なH3K4me3は転写の障壁となり、H3K4me3が転写を促進するというこれまでの定説と逆説的に転写を阻害することを示します。さらに解析を進め、KDM5AはH3K4me3を一時的に解除することで、転写開始から転写伸長へと進む際の転写関連複合体の切り替えを助けていることが示唆されました。

本研究は、KDM5Aが転写開始点におけるヒストンメチル化を必要な局面で至適なレベルに制御することで、MYC標的遺伝子の転写を促進し、骨髄腫細胞を増殖に導くという新たなエピゲノム制御モデルを提唱しました。また、KDM5阻害剤が骨髄腫細胞の増殖を抑制することを示しました。

本研究を主導した大口裕人准教授は次のようにコメントしています。

「本研究により、ヒストン修飾制御を介する骨髄腫細胞増殖の仕組みの一端が解明され、また、KDM5Aを標的とした治療法の可能性が示されました。KDM5ファミリーは他のがん腫の増殖にも関わることが明らかにされつつあります。これまでのKDM5阻害剤は細胞膜透過性が弱く、細胞や生体内での効果が乏しいことが問題でしたが、本研究で開発したKDM5阻害剤を土台として今後治療薬が開発されれば、これまでの治療法と組み合わせることで、多発性骨髄腫のみならず、様々ながん腫における新規治療戦略に発展していくことが期待されます。」

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本研究成果は、科学雑誌「Blood Cancer Discovery」に令和3年4月10日(日本時間)にOnline First版で掲載されました。

Source:

Ohguchi, H., Park, P. M. C., Wang, T., Gryder, B. E., Ogiya, D., Kurata, K., ... Qi, J. (2021). Lysine Demethylase 5A Is Required for MYC-Driven Transcription in Multiple Myeloma. Blood Cancer Discovery. doi:10.1158/2643-3230.bcd-20-0108


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