田中 肇 東京大学名誉教授(研究当時:生産技術研究所 教授/現在:同研究所 シニア協力員;先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー(特任研究員))、トン フア 特任研究員(研究当時、現:中国科学技術大学 准教授)、復旦大学のタン ペン 准教授、ガオ チョン 大学院生、リー ミンフアン 大学院生、タン シーシャン 大学院生、チェン ヤンシャン 大学院生、ファン ジーピン 大学院生、北京大学のシュー リーメイ 准教授、アイ ジンドン 大学院生、香港中文大学のシュー レイ 教授の共同研究グループは、低温における高速結晶化が、どのような条件下で、またどのような機構で起きるのかを明らかにすべく研究を行った。ある条件下においてガラス状態にある物質が結晶化することが知られている(脱硝と呼ばれる)。脱硝が起きると、透明であるはずの光ファイバーに濁りが生じたり、人体への吸収の良いガラス状態で作成された薬が、保存中に結晶化し吸収が悪くなるなど、深刻な問題を引き起こす。このように、基礎・応用面での重要性にもかかわらず、分子がほとんど動けないような低温状態でどうして結晶化が起こるのかは未解明であった。
液体の温度を低温に急激に下げると、液体中の分子や原子の拡散が劇的に遅くなり、そのため結晶化が阻害されガラス化する。こうして形成されたガラス状態は熱平衡状態にはないが、極めて高い安定性を持つと考えられてきた。一方で、低温において一見安定なガラス状態にある物質が結晶化することがあるが、その機構は未解明であった。本研究グループは、拡散がほとんど起こらないような深い過冷却下の荷電コロイド系における高速結晶成長を、共焦点レーザ顕微鏡を用いて一粒子レベルで実時間三次元観察することに成功した。さらに、数値シミュレーションの結果、理論的な考察と合わせることで、結晶化の物理的なメカニズムを微視的レベルで明らかにすることに成功した。具体的には、低温での結晶化が、2つの結合したステップで構成される、拡散を伴わない秩序化の繰り返しにより起こることを発見した。すなわち、結晶表面に形成される結晶前駆体構造からなる界面の秩序化により結晶化が進行し、界面がステップ状に前進した後、新たに形成された結晶相の内部に残された欠陥が修復され、その修復が終わり秩序の高い界面が再び形成されるとまた最初のステップに戻るという形で、この2つの過程が繰り返される。前者の過程は拡散を伴わない協同的なプロセスであり、後者の過程は結晶品質の制御に関わる。さらに、結晶成長界面に接触している秩序の高いガラス状態の機械的不安定性1,2)が、このドミノ倒しのような繰り返し機構による低温高速結晶成長を可能にしていることを発見した。
これらの発見は、結晶化の基本メカニズムの深い理解に貢献するのみならず、ガラスの安定性向上や結晶品質の制御に関する応用にも役立つと考えられ、ガラスや結晶に関連した広範な分野に大きな波及効果が期待される。
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本成果は2021年5月6日(英国夏時間)に「Nature Materials」のオンライン速報版で公開された。
Journal
Nature Materials