News Release

hMTH1における幅広い基質特異性の仕組みを解明

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Structure of hMTH1 Recognizing 2 Oxidized dNTPs

image: hMTH1 recognizes two oxidized dNTPs as shown in the 3-D structure (upper area of figure: hMTH1, ribbon; damaged dNTPs, sticks). The determining factor in the broad substrate specificity is differing protonation states between Asp-119 and Asp-120 (lower area of figure). view more 

Credit: Professor Yuriko Yamagata

ヒトMutTホモログタンパク質(hMTH1)は、DNA合成の原料となる酸化損傷デオキシヌクレオシド三リン酸(酸化dNTP:酸化ヌクレオチドの一種)を加水分解し、無毒化するためのはじめの酵素として働きます。hMTH1は正常細胞にとって必須でないものの、がん細胞にとってはDNAへ変異原である酸化ヌクレオチドを組み込むことでがん細胞が細胞死することを回避するために必要な酵素です。このため新規抗がん治療の標的として注目され、現在、抗がん剤候補としてhMTH1阻害剤の開発が進められています。hMTH1を阻害することの有用性に関しては疑問視する報告もありますが、がん細胞のDNAへ酸化ヌクレオチドの導入を可能にする非常に強力かつ選択的なhMTH1阻害剤は、将来のがん治療に大いに期待されています。

通常、ある酵素に認識され変化(触媒)する物質(基質)は非常に限定的です。しかし、酵素の中でも複数の基質を触媒する(幅広い基質特異性)ものがあり、hMTH1も同様に複数の酸化dNTPを加水分解することが知られています。なぜhMTH1が幅広い基質特異性を持つのかという検討を、熊本大学等の共同研究グループが世界に先駆けて行いました。

熊本大学、量子科学技術研究開発機構、九州大学の共同研究グループは、いずれも酸化dNTP である8-oxo-dGTPおよび2-oxo-dATPを加水分解する機能のメカニズムを調べるため、hMTH1の構造および酵素反応を解析しました。解析の結果、hMTH1の基質認識部位に含まれるアスパラギン酸残基「Asp-119」と「Asp-120」間でプロトン化(プロトン(H+)を付加すること)と脱プロトン化(H+を取り除くこと)の状態が変化することが、hMTH1の幅広い基質特異性の決定要因であることを見出しました。つまり、Asp-119またはAsp-120におけるプロトンを付加したり取り除いたりといった化学反応が、hMTH1に8-oxo-dGTPまたは2-oxo-dATPを認識させる引き金となっていたのです。これにより、hMTH1は、DNA 合成の原料となる酸化dNTPがDNA合成に使用される前に、それらを加水分解することができます。酸化ヌクレオチドを含むDNAはがん細胞の細胞死を引き起こすため、hMTH1が先に酸化dNTPを加水分解してしまえば、細胞死は起こらなくなるという仕組みです。

研究を主導した熊本大学大学院生命科学研究部機能分子構造解析学の山縣ゆり子教授は、今回の研究成果について次のようにコメントしました。

「私たちは、Asp-119とAsp-120間のプロトン化・脱プロトン化状態の変化が、hMTH1が酸化損傷したヌクレオチドを加水分解するシグナルであることを見出しました。hMTH1によるこの作用が抑制されれば、がん細胞は酸化損傷したヌクレオチドを蓄積し、最終的に細胞死を起こすことでがん細胞を死滅させることが可能になります。この部分のメカニズムが明らかになったことにより、本研究成果がhMTH1を標的とした抗がん剤の開発に役立つものと考えています。」

本研究成果は、『Journal of Biological Chemistry』に掲載され、F1000Prime(生物学・医学分野の出版論文を国際的に有力な研究者が推薦するもの)の推薦論文にノミネートされています。

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[Citation]

S. Waz, T. Nakamura, K. Hirata, Y. K. Ogawa, M. Chirifu, T. Arimori, T. Tamada, S. Ikemizu, Y. Nakabeppu, and Y. Yamagata, “Structural and kinetic studies of the human nudix hydrolase mth1 reveal the mechanism for its broad substrate specificity,” Journal of Biological Chemistry, VOL. 292, NO. 7, pp. 2785–2794, February 17, 2017 DOI: 10.1074/jbc.M116.749713


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