image: Peripheral neutrophils are collected after 4 weeks of high fat diet (HFD) to LDLR -/- mice or wild type control mice. Significant citrullinated HistoneH3 signals are only recognized in LDLR -/- mice with HFD. view more
Credit: Department of Life Science and Bioethics,TMDU
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科先進倫理医科学分野の吉田雅幸教授と大坂瑞子助教の研究グループは、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターとの共同研究で、高脂肪食負荷による動脈硬化性血管炎症反応に好中球ヒストン※1蛋白のシトルリン化※2が関与していることをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌JACC: Basic to Translational Scienceに、2021年5月19日にオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
アテローム性動脈硬化症の発症および進展には血管炎症反応が重要な役割を果たしています。これまでの多くの動脈硬化症研究によって血管内膜への単球やマクロファージの接着が動脈硬化巣形成の引き金になることが報告されてきました。研究グループは以前、野生型マウスに対する高脂肪食負荷早期に好中球が血管内膜へ接着し、内膜での白血球集積の増加に関与することを見出だし、これらの結果から動脈硬化症の発症において好中球は重要な役割を果たすことが示唆されました。しかし、動脈硬化症に関連する血管炎症を誘発する好中球の性質について明らかとなっていませんでした。そこで好中球の質的変化が動脈硬化症に関連した血管炎症反応に関与することを仮説とし、動脈硬化症モデル動物であるLDL受容体欠損マウスの好中球について調査しました。
【研究成果の概要】
好中球は細菌感染等の炎症反応における炎症の急性期に関与し、さらに好中球細胞外トラップ(NET)という新しい現象が感染によって誘導されることが報告されました。NETはペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)※3によってヒストン中のアルギニン残基がシトルリン残基に変換されることにより核内のクロマチン構造※4を細胞外に放出します。高脂肪食を摂取したLDL受容体欠損マウスの末梢血好中球では、野生型マウスに対してヒストンタンパクのシトルリン化が亢進していました。さらにこれらのマウスの血中では好中球の遊走因子であるCXCL1が特異的に上昇し、CXCL1は好中球のヒストンH3シトルリン化を誘導しました。また、高脂肪食を摂取したLDL受容体欠損マウスの大腿動脈では血管内膜への好中球接着が亢進していましたが、シトルリン化を抑制するPAD4 阻害剤の投与により好中球接着が有意に減少しました。また、血中の中性脂肪の上昇を抑制する選択的ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)モジュレーターであるペマフィブラートは血中CXCL1を減少し、ヒストンシトルリン化を抑制して好中球接着を抑制しました。
【研究成果の意義】
この研究により、動脈硬化症発症に関連した血管炎症反応に好中球が関与することが解明され、中性脂肪低下薬ペマフィブラートが好中球ヒストンのシトルリン化と血管炎症を抑制することが分かりました。脂質異常症低下薬の抗動脈硬化作用として好中球ヒストンのシトルリン化抑制という新たな機序が同定されました。
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【用語解説】
※1ヒストン 染色体を構成するタンパクで、DNAを巻き付けて核内に収める役割を持つ。
※2 シトルリン化 タンパク質を構成するアミノ酸の一つであるアルギニンがシトルリンに変換されること。これによりタンパク質の構造が変化する。
※3 ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4) タンパクのアルギニン残基をシトルリン残基に変換する酵素。
※4 クロマチン構造 4種類のタンパク(ヒストン)にデオキシリボ核酸(DNA)が巻き付いた構造物が数珠上に連結したもの。
※5 TC 血中の総コレステロール値。
※6 TG 血中のトリグリセリド値。