News Release

多能性幹細胞を用いて胎児腎臓の高次構造を再現

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Higher-Order Kidney Structures Reconstructed from Mouse Es Cells

image: [LEFT] The higher-order structure of the kidney reconstructed from mouse ES cells (low magnification, green: collecting tube, red: nephron progenitor cells). [RIGHT] The nephron connected to the tip of the collecting tube (high magnification, green: collecting tube, red: distal convoluted tubule, blue: proximal convoluted tubule, pink: glomus). view more 

Credit: Dr. Atsuhiro Taguchi & Professor Ryuichi Nishinakamura

胎児の腎臓は、「ネフロン前駆細胞」、「尿管芽」、「間質前駆細胞」の3種類の前駆細胞群が互いに作用しあうことによってその高次の立体構造高次構造を形成します。これまでの研究で、マウスの多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を誘導する方法が確立されていましたが、他の2つの前駆細胞が含まれていないため、腎臓の高次構造(前駆細胞同士が有機的に繋がっている状態)は再現されていませんでした。今回、日本の研究グループが、多能性幹細胞から腎臓に重要な「尿管芽」を誘導する方法を開発し、腎臓の高次構造を再現することに成功しました。

現在、慢性的な腎臓病疾患に罹患している患者数は増加しており、世界で200万人以上が深刻な腎疾患の影響を受けています。腎臓病の患者は週に数回、数時間におよぶ治療を一生涯継続する必要があることから生活の質の低下を余儀なくされています。しかしながら腎移植の機会は限られており、山中教授らによるiPS細胞の発明を契機に腎臓の再生医療への期待が高まっています。現在、いかにして臓器の全体構造を再現するのかというのは様々な臓器再生研究における共通の課題であり、熊本大学の再生医学に携わる研究者は、完全な腎臓の作製を目指して取り組んでいます。 そのためには、尿を膀胱に流すことができるような高次構造の腎臓の実現が重要です。

これまでの研究によって、この腎臓の高次構造の形成には胎児期の腎臓における3つの前駆細胞集団の相互作用が必須であることが明らかにされていました。すなわち、ネフロンの元になる「ネフロン前駆細胞」、集合管の元になる「尿管芽」、さらにこれらの構造の間を埋めて支持組織を形成する「間質前駆細胞」です。中でも、尿管芽は腎臓の形態形成における中心的役割を果たしています。

熊本大学発生医学研究所の研究グループは2013年末に、マウスES細胞およびヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞の誘導法を確立して3次元のネフロン構造を含んだ腎臓組織の一部を作製することに世界に先駆けて成功し、報告していました。その後、世界中のさまざまな研究室からネフロンを作製する方法が発表されてきた一方で、ネフロン同士を接続する集合管の構造を再現したものはありませんでした。そこで今回は、尿管芽を多能性幹細胞から誘導する方法を確立し、ネフロン前駆細胞や間質前駆細胞と組み合わせることで腎臓の構造を再現することを目的としました。

研究の結果、まず、胎生8.75日目から11.5日目にかけて尿管芽のもとになるウォルフ管が徐々に機能的に成熟し、樹状分岐能力を獲得することがわかりました。ウォルフ管細胞を体外で培養し、尿管芽に成熟させるのに必要な成長因子を発見しました。次に、ウォルフ管細胞にマウスES細胞を誘導する手法を研究し、ネフロン前駆細胞と尿管芽は、それぞれ個別に最適化された誘導条件が必要であることが示唆されました。

次にマウスES細胞から誘導した尿管芽の機能性を確認するために、誘導ネフロン前駆細胞、さらにマウス胎仔由来の間質前駆細胞と混ぜ合わせて組織培養を行いました。その結果、樹状分岐形成能力、分岐の先端でネフロン前駆細胞からネフロンを分化させる能力、ネフロン前駆細胞の一部を前駆細胞のまま維持させる能力という尿管芽の3つの機能的特徴をきちんと持っていることが確認され、典型的な胎児腎臓の高次構造が再現されることが確認できました。

以上の手法を少し修正するだけで、ヒトiPS細胞からも尿管芽を誘導することができました。また、この尿管蛾を成長因子入りのゲル中で培養したところ、樹状分岐能を確認することができました。マウスとヒトの腎臓で尿管芽形成に不可欠であると報告されているPAX2を活性化せずに同様の実験を行ったところ、尿管芽は正しく形成されず、樹状分岐は誘導されませんでした。このことから、遺伝子変異による腎臓の形態形成異常が、ヒトiPS細胞から誘導した尿管芽を用いて研究し得る可能性が示されました。

「これらの研究成果は、臓器を構成する各前駆細胞をその発生過程に応じて多能性幹細胞から作り分け、さらに適切に組み合わせることで、臓器の高次構造をある程度再現し得る可能性を示しています。腎臓の臓器再生研究の基盤戦略を示すだけでなく、臓器の形が出来る仕組みの解明に大きく寄与することが期待されます。」

共同して研究を行った西中村教授は次のようにコメントしています。

「本研究は、腎臓のような複雑な臓器の「形」を人工的にどのように再現するかという課題に1つの道筋を示したものです。しかしながら、これを全て多能性幹細胞から作成するには、間質前駆細胞を誘導する方法の開発が必須です。さらに、腎臓が機能し、大きく成長するためには、血管系組織の組み込みも欠かせません。したがって、移植できるような腎臓組織の作製にはまだ多くの課題が残りますが、今回の報告をもとにさらなる腎臓再生研究の進展が見込まれるものと考えられます。また、これまで誘導できていなかった集合管組織の作製が可能になることで、集合管に先天性の形成異常をきたすような疾患の病態再現および解明が前進することが期待されます。」

本研究成果は「Cell Stem Cell」に2017年11月9日掲載されました。

*現在、太口博士はドイツのマックス・プランク分子遺伝学研究所に在籍

[Source]

Taguchi, A., & Nishinakamura, R. (2017). Higher-Order Kidney Organogenesis from Pluripotent Stem Cells. Cell Stem Cell, 21(6), 730–746.e6. doi:10.1016/j.stem.2017.10.011


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