News Release

漂流者たち:分野を超えた研究でプランクトンの多様性を探る

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Professor Simone Pigolotti and Professor Tom Bourguignon

image: Professor Simone Pigolotti (left) and Professor Tom Bourguignon (right) used metagenomics and quantitative modelling to look at what influences plankton diversity. The research group also included postdoctoral fellows, Dr. Paula Villa Martín and Dr. Ales Buček. view more 

Credit: OIST

海洋プランクトンは、海における漂流者です。プランクトンには、藻類、動物、細菌、原生生物があり、潮流と海流によって漂っています。多くのプランクトンは肉眼ではほとんど観察できないくらい小さいですが、中にはクラゲのように比較的大きく成長するものもあります。

海洋プランクトンの多様性は予想をはるかに上回ります。これは何十年もの間、生態学者を悩ませてきた、海を漂流する生き物についての一つの事実です。一般に海洋から得られたプランクトンのサンプルには、数多くの希少種が含まれ、豊富に存在する種は少ししかありません。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、数理モデルとメタゲノミクス、海洋科学を組み合わせ、なぜそうなるのかを明らかにした論文をScience Advances誌に発表しました。

「何年もの間、科学者たちはなぜ海に多くの生物種が存在するのかと疑問を抱いてきました」と、OISTの生物学的複雑性ユニットを率いるシモーネ・ピゴロッティ准教授は話します。ピゴロッティ准教授によると、プランクトンは海流によって非常に長い距離を移動できるため、生息場所が制限されるとは考えにくいのです。このことは、種の多様性はニッチの選好性によって決まることを示唆します。すなわち、ある環境内でのニッチに最も適した種が他の種すべてを打ち負かし、少数の種のみが多く存在する生物群集となると考えられます。

ピゴロッティ准教授は説明を続けます。「私たちの研究は、海流が種の多様性を高めるという理論を調査しました。海流はプランクトンの分散を助けるのではなく、障壁を作ることによって分散を実際に制限できるからです。対照的に、水の流れがほとんど、あるいは全くない湖のサンプルを調べたところ、豊富に存在する種が多数見つかった一方で、生物種の全体数は少ないことがわかりました。」

この現象は一見、私たちの直観に反するように思えるかもしれません。しかし、海流はプランクトンをある海域から別の海域に運ぶこともある一方で、プランクトンが海流の反対側に渡ることを防ぎます。このような海流により、生物種間の競争は減少し、各プランクトン種の個体数は少数に保たれるものの、他種と共存することになります。

DNAテストと数理モデルの組み合わせ

生態学者らは1世紀以上にわたり、ある地域に存在する鳥や昆虫などの種数を数えることによって多様性を測定し、豊富な種と希少種の比率を明らかにしてきました。現在ではこの作業は、メタゲノミクスと、種の分布を予測できる定量的モデリングによって能率化されています。単に種の数を数えるのではなく、サンプル中のすべてのDNAを効率的に収集できるようになったからです。

「サンプル中の生物種の存在量を単純に数えることは非常に時間がかかります。現在はシーケンシング技術の進歩により、たった1回のテストで数千のDNA配列を手に入れることができ、浮遊生物の多様性を適切に推定できます。」と、OIST進化ゲノム学ユニットを率いるトマ・ブーギニョン准教授は語ります。

本研究グループは、原生生物(顕微鏡でしか観察できない通常単細胞の浮遊生物)に特に着目し、原生生物の系譜を決定する上で、海流の役割を考慮した数理モデルを作成しました。個体数が膨大だったため、DNAレベルでの原生生物群集のシミュレーションはできませんでした。そのため、代わりに海洋のサンプル内にいた個体レベルでシミュレーションを行いました。

個々の生物がどれほど密接に関連しているか、また同種であるかどうかを知るため、研究では時間をさかのぼりました。「私たちはプランクトンの進化軌跡を数百年前までさかのぼって作成しました。ある2つの個体がシミュレーション内でのあるタイムスケールにおいて、共通の祖先から派生していた場合、それらを同種として分類しました。」とピゴロッティ准教授は説明します。

具体的には種の数と種ごとの個体数を計測しました。海流がある場合とない場合でのモデルでシミュレーションを行ったところ、研究者らの仮説どおり、海流が存在するときには原生生物の種数は急激に増加し、種ごとの個体数は減少しました。

このモデルの結果を確認するため、水生原生生物に関する2つの研究におけるデータを分析しました。1つ目のデータは海洋原生生物のDNA配列であり、2つ目のデータセットは淡水原生生物のDNA配列です。分析の結果、平均して海洋サンプルには希少種がより多く、また豊富に存在する種はより少なく存在し、全体としてはより多くの種が存在することがわかりました。これはモデルの予測と一致します。

「この研究結果は、海流が障壁を作り出すことによって希少な水生原生生物の多様性に正の影響を与えるという理論を支持するものとなりました。本プロジェクトは分野間の壁を超えた学際的なものです。理論物理学、海洋科学、メタゲノミクスを組み合わせることで、海洋の生物多様性に関連した生態学における古典的課題に新たな光を当てました。」と、ピゴロッティ准教授はコメントしています。

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研究チームには、ピゴロッティ准教授とブーギニョン准教授の他に、生物複雑性ユニットの博士研究員であるパウラ・ヴィラ・マーティン博士と進化ゲノミクスユニットの博士研究員であるブチェック・アレシュ博士が参加しました。


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