News Release

暗黒物質による宇宙大規模構造の複雑に絡み合う重力進化

Peer-Reviewed Publication

Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe

このニュースリリースには、英語で提供されています。

東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の斎藤俊(さいとう しゅん)特任研究員、奥村哲平(おくむら てっぺい)特任研究員らは、理論と数値シミュレーションを詳細に比較した研究から、銀河や銀河団の内部および周囲に存在する暗黒物質がどのように分布し、お互いの重力で引き合って進化してゆくのかを計算する際、従来の計算では無視されていた、銀河団よりはるかに大きなスケールの潮汐力のような周囲の環境からの影響を考慮に入れることが重要であることを突き止めました。

現在の標準的な宇宙の大規模構造形成のシナリオでは、私たちの体を作る原子などの通常の物質の約5倍も存在する暗黒物質が重力で集まり、その場所に通常の物質がさらに引き寄せられて集まることで星や銀河が作られ進化してきたと考えられています。したがって、SDSS BOSS(注3)や SuMIReプロジェクトなど、銀河の3次元地図を作成して宇宙の歴史を解明しようとしている研究では、銀河の分布とその進化を調べるために暗黒物質がどのように集まったのかを理解することが大変重要です。

今回の研究成果から、従来無視されていた項を考慮することで宇宙の暗黒物質の分布をより正確に推定することができるようになります。この方法はすでにBOSSプロジェクトの銀河分布の解析で実際に使用され始めており、今後宇宙の暗黒エネルギーの性質の理解や宇宙のニュートリノの総質量の測定などを通して、宇宙の歴史の解明につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学雑誌Physical Review D で特に注目すべきとして編者が選んだ「Editors' Suggestion」として掲載されました。

発表内容:

東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)が参画する、SDSS BOSSプロジェクトやSuMIReプロジェクトのなどの大規模な銀河サーベイ観測では、銀河の3次元地図から宇宙の大規模構造形成の進化の様子を詳細に解析することで、宇宙の加速膨張の謎に迫ったり、素粒子の一つであるニュートリノの質量を測定したりするなど、宇宙の歴史をひもとくと同時に、基礎物理学に対する大きな発見があると期待されています。

現在標準的とされる宇宙の大規模構造形成のシナリオでは、私たちのからだを作る原子などの通常の物質の約5倍も存在する暗黒物質が重力で引きよせ合って集まった、暗黒物質のハローと呼ばれる領域がまず形成されます。そのハローに、通常の物質である水素などのガスがさらに引き寄せられて集まり、星形成さらには銀河の形成へとつながり、宇宙の大規模構造形成が進化してきたと考えられています。したがって、BOSSやSuMIReで得られた銀河の3次元地図を正しく解釈するには、まずこの暗黒物質のハローがどのように形成され、どのように進化してきたかを正確に理解する必要があります。

ハローの集まり具合(ハローバイアス)がどのように理論的に記述されるかについては様々な先行研究がありましたが、物理的考察にもとづき、かつシミュレーションの結果をよく再現するものはありませんでした。Kavli IPMUの斎藤俊(さいとう しゅん)特任研究員、奥村哲平(おくむら てっぺい)特任研究員らは、重力による大規模構造の進化を考える上で数学的に許される効果のみを取り入れた最近の先行研究を発展させ、ハローの2点統計や3点統計(注4)という量を予言し、シミュレーションとの詳細な比較を行いました。斎藤研究員らは、シミュレーションにおける結果を再現するには、従来無視されていた、銀河団よりはるかに大きなスケールの潮汐力に起因するような周辺の環境からの影響を取り入れる必要があること、またその影響の大きさが簡単な物理的考察から予言されるものとよく一致していることを確かめました。

今回の研究成果は、物理的考察に基づいてハローバイアスを記述する、より正確なモデルが構築されたことを意味します。このモデルは、BOSSプロジェクトにおける銀河の分布の解析の場面で実際に適用されはじめており、今後、宇宙の暗黒エネルギーの性質の解明や宇宙のニュートリノの総質量の測定などの成果につながると期待されます。より詳細なハローバイアスのモデル化や、暗黒物質ハローと銀河の関係など、理論的な課題はまだまだ山積みではあるものの、今回の研究成果は、大規模な銀河の3次元地図を用いて宇宙の歴史を解明するための足がかりとなる重要な一歩と言えます。

本研究はJSPS科研費25887012の助成を受けたものです。

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発表雑誌: 

雑誌名、巻号:Physical Review D 90, 123522 (2014)

論文タイトル:Understanding higher-order nonlocal halo bias at large scales by combining the power spectrum with the bispectrum

著者:Shun Saito*, Tobias Baldauf, Zvonimir Vlah, Uros Seljak, Teppei Okumura, and Patrick McDonald

DOI番号:10.1103/PhysRevD.90.123522

アブストラクトURL:http://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.90.123522

問い合わせ先: 
報道対応

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当
電話:04-7136-5974(大林) Fax: 04-7136-4941 電子メール: press_at_ipmu.jp
研究内容について

斎藤 俊(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・特任研究員)
電話: 04-7136-6558 電子メール: shun.saito_at_ipmu.jp

※電子メールにてお問い合わせの際は、_at_を@に変更して送信して下さい。迷惑メール防止にご協力お願い致します。
用語解説: 

注1:暗黒物質

宇宙に多く存在すると考えられているが、光を発したり吸収したりせず、また通常の物質ともほとんど反応しないため観測が難しく、まだ直接観測できていない物質。銀河の回転速度、銀河団による重力レンズ効果など暗黒物質の存在を強く示唆する観測結果は多い。宇宙全体では質量比で通常の物質の約5倍あり、重力による宇宙の大規模構造の進化の主な要因と考えられている。

注2:SuMIReプロジェクト

ハワイ、マウナケア山頂のすばる望遠鏡に新たに製作した超広視野カメラHyper Suprime-Cam(HSC)と超広視野分光器 Prime Focus Spectrograph(PFS)をとりつけ、イメージング観測と分光観測を組み合わせて宇宙の歴史の解明を目指すプロジェクト。Subaru Measurement of Images and Redshifts の略で、研究代表者はKavli IPMUの村山斉機構長。2014年にHSCによる科学観測を開始した。PFSの製作を進めており、2018年から5年間の観測を予定している。

注3: BOSSプロジェクト (Baryon Oscillation Spectroscopic Survey)

Sloan Digital Sky Survey の第III期 (SDSS-III, 2009-2014)における銀河分光サーベイ。米国ニューメキシコ州にあるアパッチポイント天文台にある2.5mの望遠鏡を用いて、約100万個の明るい銀河と15万個のクエーサーを観測。バリオン振動スケールの精密測定を通して、宇宙の様々な時期の我々からの距離を測定し、宇宙膨張の様子を明らかにすることによって、宇宙加速膨張を引き起こすダークエネルギーの謎を解明することを主目的としている。

バリオン振動スケール測定についての以前のプレスリリース:
http://www.ipmu.jp/ja/node/1803

注4:2点統計と3点統計

ハローの集まり具合を特徴づけるために、ある距離だけ離れた2つのハローの数が宇宙の平均個数密度に比べてどれくらい多いかを、距離スケールの関数として表したものが2点統計であり、これを3つのハローに拡張したものが、3点統計。


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