News Release

皮下の血管の様子を非接触・リアルタイムで鮮明に可視化

レーザー照射とカメラ撮影の僅かなギャップで散乱光をキャッチ ~注射・採血、診断などの医療応用に期待~

Peer-Reviewed Publication

Nara Institute of Science and Technology

Overview

image: Overview of the method. Usage scene of the device to capture the vein in the skin of the arm (a) and comparison between a photo (b) and our method (c). view more 

Credit: Hiroyuki Kubo

【概要】

奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科 情報科学領域 光メディアインタフェース研究室の久保尋之助教、岩口尭史博士後期課程学生(現:九州大学助教)、舩冨卓哉准教授、向川康博教授らと、米国・カーネギーメロン大学のSrinivasa G. Narasimhan教授、アリゾナ州立大学のSuren Jayasuriya助教らによる研究グループは共同で、皮下の血管の様子を非接触かつリアルタイムで鮮明に可視化する技術を開発しました。この技術によって、血管が細いため、注射や採血が難しい高齢者や子どもの静脈の視認が容易になるほか、足の血管がこぶのように膨らむ下肢静脈瘤などの疾患の診断などへの応用が期待されます。

光源から肌に光を照射すると、光の大部分は肌の表面で反射しますが、ごく一部の光は肌の内部に入りこみ散乱することで、光が肌に当たった位置と内部を経由して外に出てくる位置との間には、僅かなギャップが生じることになります。私たちは、このような肌の内部を経由している散乱光を観測することによって、皮下に分布する血管の様子を捉えることが出来ることに着目しました。

まず、市販のレーザー走査型のプロジェクタとローリングシャッター方式のカメラを並行に配置する計測装置を構築しました。このプロジェクタの光線とカメラのシャッターは、被写体を高速にスクロールしています。そこで、光線の照射と撮影のタイミングに1ミリ秒以下のごく僅かな遅延時間を意図的に挿入することで、光線を照射する位置とカメラで観測する位置との間に僅かなギャップ(距離)を設けました。その結果として、肌表面で反射される光に影響されないように、肌の内部を通過して散乱する光だけを選択的にとらえることが出来るようになり、皮下の血管の様子を非接触でリアルタイムに映像化することに成功しました。また、撮影した動画像を解析することにより、脈拍の測定が可能となりました。

本システムは外光の影響を受けにくいため、日常的な明るさの室内で利用が可能であるうえ、光源は可視光を用いているため、X線などと比較して健康への影響が少ないことが特徴です。さらに、小型でかつ安価な構成のため、家庭や発展途上国での利用も期待されます。

この研究成果は、2019年10月21日付で国際学術誌 IEEE Transaction on Visualization and Computer Graphics (TVCG) に掲載されました。

【解説】

画像処理の研究分野では、被写体に光を当てたときの光の伝搬を、プロジェクタとカメラを用いて観測することで、人の眼には見えないような被写体の隠された情報を可視化する研究が古くから行われます。2015年には、レーザー走査型プロジェクタによる照明とローリングシャッター方式のカメラによる撮影とをタイミングを合わせて行う、時間同期式のプロジェクタ-カメラシステムが提案されました。この研究では、撮影と照明のタイミングを合わせているため、光源から出た光を被写体に当てる位置とカメラが観測する被写体の位置は、常に一致しています。

本研究では、この時間同期式プロジェクタ-カメラシステムを応用し、照明と撮影とのタイミングに1ミリ秒以下の僅かな遅延時間を意図的に挿入します。これによって、光を当てる位置とカメラで観測する位置との間に、若干の距離を設けることが出来るようになります。

ものの表面で反射する光は、光が当たった位置で反射しますから、本システムでは観測されません。一方、物の内部に進入し、散乱した光は少し離れた位置まで広がって届きますから、本システムではこのような散乱光だけが観測されることになります。従って、本システムで人の肌を観測した場合、肌の表面での反射光は全く観測されず、逆に肌の内部を経由した散乱光だけが計測されることで、肌の内部にある血管があたかも影のようにカメラで捕らえられることになります。

本システムは、レーザー光を光源とするため、バンドパスフィルタを併用することで外からの光を大幅にカットでき、そのため室内光を付けたままで使用可能です。また、レーザー走査方式のプロジェクタもローリングシャッターカメラも安価で製造されているため、システム全体の製造コストも低く抑えられることが期待できます。

今後は、より鮮明な可視化を目的とした画像処理アルゴリズムの開発や、更なる小型化を目指して研究を継続します。

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【掲載論文】

タイトル: Programmable non-epipolar indirect light transport: capture and analysis

著者: Hiroyuki Kubo, Suren Jayasuriya, Takafumi Iwaguchi, Takuya Funatomi, Yasuhiro Mukaigawa & Srinivasa G. Narasimhan

掲載誌: IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics

DOI: 10.1109/TVCG.2019.2946812

【研究室ホームページ】

http://omilab.naist.jp/index.html

【用語解説】

レーザー走査型プロジェクタ:レーザー光が内蔵の振動式小型のミラーに反射し、スクリーンを2次元的に走査することによって映像を投影する方式のプロジェクタ。超小型で低消費電力な点が特徴。

ローリングシャッターカメラ:カメラのセンサ素子(イメージセンサ)が上部のラインから順に露光が開始される方式のカメラ。安価に製造できることなどが特徴。

バンドパスフィルタ:特定の波長の光だけを透過させるフィルタ(光学素子)。室内光は様々な波長が含まれているのに対し、レーザー光はごく限られた波長しか含まないため、レーザー光の波長だけを透過するバンドパスフィルタを利用することで、不要な室内光の大部分を防ぐことができる。


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