抗マラリア薬アトバクオンへの耐性を獲得したマラリア原虫はこの耐性を子孫に伝えられないと新たな研究は示唆している。アトバクオンはマラリアの治療薬で、マラリアは寄生虫(マラリア原虫)によって引き起こされる蚊媒介疾患である。しかしこの原虫にアトバクオンへの耐性を獲得したものがあることから、ほかの抗マラリア薬のように、この耐性が拡散するのではないかと懸念されている。チトクロムb(cytB)遺伝子の変異によって耐性が誘導されることはすでに知られている。そこで、Christopher Goodmanらは齧歯動物を感染させるマラリア原虫のうち、ミトコンドリアcytB遺伝子内にそれぞれ異なる変異を生じているアトバコン耐性系統3つを調べた。遺伝子変異のうち2つは接合体での発生異常につながり、3つめは雌性生殖細胞(生殖細胞)が激しく損なわれることで完全な不妊につながることが見出された。これらの変異がある原虫とない原虫を交雑したところ、この変異は子孫に伝わらないことが示された。マウスへの蚊の刺咬750件を含む44回の感染伝播の試みから、アトバクオン耐性の伝播が観察されたのは1件のみで、この変異は7回の伝播の試みにもかかわらず、さらなる伝播は生じなかった。cytB遺伝子はミトコンドリアDNA内でコード化される。これは母親からのみ子孫へ伝えられ、ミトコンドリアでの電子伝達プロセスで重要な役割を果たす。したがって、原虫が蚊に寄生しているとき(つまり原虫がcytB関連ミトコンドリア電子伝達プロセスにもっとも依存しているとき)、アトバクオン耐性変異が原虫のライフサイクルを大きく損なうため、この変異は遺伝しえないようである。ヒトマラリア原虫のPlasmodium falciparumについて、Christopher Goodmanらは、原虫の蚊への感染能力を阻害し、感染が生じたときに形成されるオーシスト(接合子嚢)の数を低減する同様の変異を同定した。
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