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ドーパミンD1受容体の消失がパーキンソン病の「無動」を引き起す

――― ドーパミン神経伝達は、大脳基底核における&#

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

このニュースリリースには、英語で提供されています。

脳の大脳基底核にあるドーパミンが減ると、パーキンソン病に見られるように手足が動かしにくい(無動)など、重篤な運動障害が生じることが知られています。ドーパミンは主に、大脳基底核の線条体の神経細胞が持つ、D1とD2といった、異なる機能を持つ受容体にそれぞれ結合することによって働きます。しかし、これらの受容体を介する情報伝達が、大脳基底核内の信号伝達をどのように調節するのか、運動をコントロールする際にどのように働くのか、詳しくわかっていませんでした。

 今回、自然科学研究機構 生理学研究所の知見聡美助教と南部篤教授、新潟大学脳研究所の笹岡俊邦教授、北里大学の佐藤朝子研究員らの共同研究チームは、ドーパミンD1受容体を介する情報伝達は、運動を誘発するように働く「直接路」を通る情報の伝達に不可欠であり、D1受容体を介する情報伝達が消失すると、運動を起こしにくくなることを明らかにしました。  

本研究成果は、英国オックスフォード大学出版Cerebral Cortex 誌(10月6日号電子版)で公開されます。

本研究にあたり研究チームは、薬を投与することよって、脳内のドーパミンD1受容体を一時的に作れなくなる遺伝子改変マウスを新たに開発しました。このマウスの行動をD1受容体がある時とない時、それぞれの場合で調べたところ、D1受容体がない時にマウスの運動量は減少することがわかりました。また、大脳皮質を電気的に刺激して運動の指令伝達経路を追うと、正常な場合、指令は大脳基底核の3つの経路を通り、大脳基底核の出力部である脚内核にて3相性(興奮-抑制-興奮)の神経活動として出力されます。しかしD1受容体をなくすと、3相性の神経活動のうち「抑制」が見られなくなりました。この「抑制」は、大脳基底核の「直接路」と呼ばれる経路を通って伝えられ、運動を誘発するように働きます。今回の結果から、ドーパミンD1受容体を介する情報伝達は、大脳基底核の「直接路」を通る信号の伝達と、運動の発現に不可欠であると考えられます。一方、外から刺激を受けない、平常時の大脳基底核の自発的な神経活動を調べたところ、D1受容体をなくしても大脳基底核出力部の活動は変化しないことがわかりました。これまでの定説では、D1受容体を介する情報伝達がなくなると、大脳基底核からの出力部の活動が上がったり、活動パターンが変化すると考えられ、これによってパーキンソン病の症状が説明されてきました。しかし、今回の実験結果は定説とは異なるもので、大脳基底核の「直接路」を通る信号の動的な伝達の減少がより本質的な変化であることを示しています。

 南部教授は「ドーパミンD1受容体を介する情報伝達がなくなると「直接路」を通る信号がうまく伝わらなくなり、運動が起こりにくくなることがわかりました。このことは、パーキンソン病における手足が動かしにくくなる症状(無動)の発現に関係していると考えられます。例えば、直接路を通る信号の伝達を補助したり、必要なタイミングでD1受容体を活性化させることが出来れば、新たな効果的な治療法にもつながると期待できます」と話しています。

 

本研究は文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構などの助成を受けて行われました。

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