News Release

アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに

~光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり~

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに(図2)

image: 図2. ハマカキランはもともと部分的に菌に 寄生しており、アルビノでも開花できる。 view more 

Credit: Kobe University

研究の概要

神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師、鳥取大学農学部の上中弘典准教授、三浦千裕研究員、千葉大学教育学部の大和政秀准教授と基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らの共同研究グループは、ラン科植物ハマカキランのアルビノ個体を用いたトランスクリプトーム解析(遺伝子発現の網羅的解析)により、共生菌類から炭素化合物を受容する菌従属栄養性、すなわち菌類への寄生に関与する遺伝子群の探索に取り組みました。 葉緑素を失う突然変異は植物の間で広くみられる現象ですが、通常このようなアルビノ個体は、種子に貯蔵された養分を使い果たすと枯れてしまいます。しかし、ハマカキランのように、もともと菌への寄生能力を獲得している種の場合、アルビノ個体でも生育可能です。アルビノ個体は、同種内で生じた突然変異であるため通常の緑色個体と遺伝的背景が似通っています。その一方、葉緑素を失っているために、緑色個体より菌従属栄養性に強く依存していると考えられます。よって本研究では、アルビノ個体で発現量が増加している遺伝子群は菌従属栄養性に関与している可能性が高いと考え、このような遺伝子群の探索を行いました。 その結果、アルビノ個体で遺伝子発現量が増加する遺伝子群と、通常の菌根共生(多くの植物にみられるアーバスキュラー菌根共生や独立栄養性のラン科植物の菌根共生)で発現する遺伝子群との間に高い共通性がみられることを明らかにしました。これまで菌従属栄養植物で見られた菌根共生については、緑色植物からの進化の過程で菌根菌の分類群が劇的に変化するパートナーシフトが認められることなどから、一般的な菌根共生とは異なるしくみを持っているとも考えられていました。しかし今回の研究成果は、共通のしくみを利用している部分が予想より多い可能性を示唆するものです。 この研究成果は、1月19日に、「Molecular Ecology」にオンライン掲載されました。

研究の詳細

植物を定義づける重要な形質として「葉緑素をもち、光合成を行う」ことが挙げられます。しかし、植物の中には光合成をやめて、キノコやカビの菌糸を根に取り込み、それを消化して生育するものが存在します。このような植物は、菌従属栄養植物と呼ばれます。 植物がどのようにして自身の最も重要な特徴ともいえる光合成をやめ、寄生生活を営むことができるのかは、植物学上における非常に大きな問いといえます。しかし一般に菌従属栄養植物は、最も近縁な独立栄養植物とでさえ、系統的に大きくかけ離れています。そのため寄生性を可能にした適応進化以外にも、さまざまな変異が見られ、どのような遺伝子群が菌寄生性の獲得に寄与したのかを明らかにするのは困難です (図1)。

そこで本研究では、発達した緑葉を展開し、一見すると光合成だけで生存可能のように見えるにもかかわらず、菌類にも炭素を一部依存しているラン科のハマカキランに着目しました。興味深いことに、ハマカキランを初めとする部分的菌従属栄養植物は、完全に葉緑素を失ったアルビノ突然変異体を生じることがあります (図2)。通常の植物であれば、葉緑素を失ったアルビノは、種子に貯蔵された養分を使い果たすと枯れてしまうのですが、部分的菌従属栄養植物のアルビノは、元々寄生能力を獲得しているため、葉緑素を持つ通常個体と同程度まで成長し、花を咲かせることができることが知られています。このようなアルビノ個体は、葉緑素を持たないため、もはや部分的菌従属栄養性ではなく、完全に菌に依存して生育しています。緑色個体とアルビノ個体のゲノム配列はほぼ同一であるため、アルビノ個体と通常個体との比較は、菌従属栄養性の分子遺伝学的解析の理想的な材料といえます (図3)。

上記の背景のもと、ハマカキラン緑色個体およびアルビノ個体それぞれ3個体の根から抽出したRNAを用い、トランスクリプトーム解析を行いました。その結果、植物側では、アーバスキュラー菌根性の植物や独立栄養性のラン科植物で菌根共生に関与する遺伝子群が、アルビノ個体において高発現していることがわかりました。また複数の植物ホルモン生合成関連遺伝子群の発現パターンも、アルビノ個体とアーバスキュラー菌根菌が感染した植物との間で類似点が認められました。これらの結果から、菌従属栄養植物においても、通常の菌根共生と同様のメカニズムを利用して菌根菌を定着させている可能性が示唆されました。これまで菌従属栄養植物で見られる菌根共生は、劇的な菌根菌のパートナーシフトが見られることなどから、一般的な菌根共生とは異なるしくみを持っているとも考えられていました。しかし今回の研究成果は、共通のしくみを利用している部分が予想より多い可能性を示唆するものです。

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用語解説

※1:菌従属栄養植物

光合成能力を失い、菌根菌や腐朽菌から養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、タヌキノショクダイ科、コルシア科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約50種が報告されている。


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