News Release

常圧より3倍程度高い圧力下で酸化物の短時間焼成に成功

酸素欠損方向に格子間酸素がビリヤードのように酸素を拡散させる

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

FIG. 1 Setting Up a Sample in an Air-Pressure Control Atmosphere Furnace

image: Setting up a sample in an air-pressure control atmosphere furnace. view more 

Credit: COPYRIGHT (C) TOYOHASHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY. ALL RIGHTS RESERVED.

豊橋技術科学大学の中野裕美教授は、小型・軽量の加圧ガス雰囲気炉を企業との共同研究により開発し、常圧の3倍程度高い加圧下で、Li2O-Nb2O5-TiO2系(LNT)固溶体材料の周期構造が短時間で均質に合成できることを見出しました。また、そのメカニズムを詳細な組織・構造解析により解明しました。本技術は、汎用型電気炉に比べて焼成工程が1/4以下になるため、他の材料系への応用も期待できます。今回開発した加圧ガス雰囲気炉は、通常のAC100Vコンセントを使用でき、最大800Wで省エネルギータイプの焼成炉です。加圧ガスはコンプレッサーまたは、ガスフローにより供給・制御し、材料を1100度まで加熱することができます。(図1)

この加圧ガス雰囲気炉の性能を検証するために、LNT系固溶体材料に着目しました。中野教授らは、長年LNT系固溶体材料を研究対象としており、本材料の電気特性や蛍光体の母体としての応用に関する研究を進めると共に、電気炉やミリ波炉による基礎データを持っていたからです。「この材料は、ある組成域で、M相と呼ばれる特異な周期構造(超構造)を自己組織的に発現させます。超構造は、三方晶のLiNbO3タイプ構造が母相となり、この母相を分割するように、コランダムタイプの[Ti2O3]2+相がインターグロース層として周期的に挿入して形成されるという特徴があります。」と中野教授は説明します。汎用型電気炉では、均質な超構造を有する試料の合成には長時間の焼成が必要ですが、短時間で均質に合成できれば、実用材料として利用範囲が広がると考えています。

では、なぜ短時間焼成が実現できたのでしょうか?一般に、低酸素分圧側では空孔機構が、高酸素分圧側では陽イオン欠損が優勢となることが知られています。今回の圧力下では、陽イオン欠損が優勢であるにも関わらず、格子間酸素が関与した酸素拡散機構であることがわかりました。そのメカニズムは、インターグロース層のTiが図2に示すように、Ti4+からTi3+になり、これにより酸素欠損が導入され、その方向に格子間酸素がまるでビリヤードのように酸素拡散を促進し、結果として粒成長方向に異方性が生じ、板状粒子を形成するというものです。

開発当初は、別の装置での短時間焼成を考えていました。理由は、加圧炉を使った常圧の3倍程度で、短時間焼成などできるはずがないと思い込んでいたからです。しかし、ある日、共同研究先のフルテック(株)の技術者が、条件を間違えて加圧炉で実験をしてきました。その結果、今まで一度もうまくいかなかったのに、この日の材料のみ、均質性の高い材料ができていました。そこで、この加圧炉で実験を開始し、さまざまな条件下で実験を行い、焼成工程の短縮を確認しました。ただ、この加圧領域で材料合成をした論文は非常に少なく、短時間焼成のメカニズムがわからず、文献や書籍を読みあさる日々を送っていました。そんな折、ある学会で講演者が高温での酸素拡散挙動を、計算結果の動画を使って説明していました。酸素欠損のある材料中で、格子間酸素がまるでビリヤードのように酸素を拡散させる様子が映っていました。この動画を見た瞬間、これが短時間焼成のメカニズムだとひらめいたのです。

現在、加圧ガス雰囲気炉を使って、今まで焼成に時間がかかっていた他の材料系への応用を検討しているところです。また、今回の材料は、光通信デバイスや各種センサー、LED等様々な分野の材料として使用することが可能です。

今回開発した加圧ガス雰囲気炉は、2018年8月30日、31日に東京ビッグサイトで開催されるイノベーションジャパン2018にて展示されます。

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本研究は、JSPS科研費 基盤(c) No. 16K06721 (代表者 中野裕美)の助成を受けたものです。

論文

Hiromi Nakano, Konatsu Kamimoto, Takahisa Yamamoto, Yoshio Furuta,”Rapid Sintering of Li2O-Nb2O5-TiO2 Solid Solution by air pressure control and clarification of its mechanism”, Materials, (2018), 11, 987, doi:10.3390/ma11060987


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