News Release

「 ヒトiPS細胞を用いた疾患モデルを開発し、難治性肝疾患の病態解明に成功

― 先天性肝線維症の治療法開発へ期待 ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Figure1

image: Congenital hepatic fibrosis (CHF) is a genetic liver disease due to the dysfunction of fibrocystin. In this study, genome-edited human iPS cells are utilized as a disease model of CHF. Fibrocystin dysfunction promotes the proliferation of cholangiocytes in an interleukin-8 (IL-8)-dependent manner, resulting in the bile duct malformation. IL-8 induces progressive liver fibrosis via the promotion of connective tissue growth factor (CTGF) production from cholangiocytes. These pathophysiological mechanisms of CHF are quite different from liver cirrhosis due to chronic hepatitis. view more 

Credit: Department of Liver Disease Control TMDU

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 肝臓病態制御学講座の柿沼 晴 准教授と朝比奈 靖浩 教授、同消化器病態学分野の渡辺 守 教授(副学長・理事)と角田 知之 大学院生らの研究グループは、東海大学、済生会横浜市東部病院、東京大学、スタンフォード大学との共同研究で、ヒトiPS細胞を用いて、遺伝性の難治性肝疾患である先天性肝線維症を模倣するヒトiPS疾患モデルを世界で初めて開発しました。本モデルでの解析により、この病気の原因となる詳細な分子機構を新たに発見しました。この研究は文部科学省 科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Hepatology (ジャーナル・オブ・ヘパトロジー)に、2019年3月19日午前0時(英国時間)にオンライン版で発表されます。

【研究の背景】

ヒトiPS細胞は、再生医療の実現のみならず、多くの疾病の病態解析や治療法の開発の有用な手段としても注目を集めています。遺伝性疾患である先天性肝線維症は、一般的に広く知られる「肝硬変」とは病気の状態がかなり異なっており、さらに肝移植以外には治療法がないことから、病態の解明と新しい治療法の開発が求められてきました。これまでは主に、マウスなど、この病気の動物モデルを用いた研究がなされていましたが、動物モデルと実際の患者さんの病態には隔たりが大きいことが問題でした。また、本疾患の原因となる遺伝子の変異が多彩なため、患者さんの細胞を用いて研究すること自体も難しいといった課題がありました。

そこで、この病気の原因は、肝臓の胆管細胞にあることが想定されていましたので、研究グループが得意とするヒトiPS細胞培養技術と遺伝子改変技術を用いて、ヒトiPS細胞のゲノムに対して、先天性肝線維症の原因とされるFibrocystin (PKHD1遺伝子) を欠損させ、そのiPS細胞を胆管細胞へと誘導することによって、先天性肝線維症の胆管細胞を模倣する疾患モデルを新たに開発できると考えました。そして、作成した疾患モデルを解析することにより、先天性肝線維症の病態解明と新しい治療法の開発につながる結果が得られると考えました。

【研究成果の概要】

研究グループは、健常者由来ヒトiPS細胞に対して、ゲノム編集技術を用いて、先天性肝線維症の原因となるFibrocystin (PKHD1遺伝子) を欠損させ、先天性肝線維症の胆管細胞を模倣する疾患モデルを新たに開発しました。この疾患モデル胆管細胞は、IL-8を多量に産生していることを発見しました。さらに、分泌されたIL-8によって胆管細胞自体の細胞増殖が異常に促進されるとともに、肝臓で線維化を誘導するCTGF*3の産生が亢進することを明らかにしました(図)。これらの変化は、遺伝子の異常によって、胆管細胞に存在する一次繊毛*4が変質することで、細胞内MAPキナーゼ経路が異常に活性化することに起因することをつきとめました。IL-8を抑制すると、細胞増殖やCTGFの産生亢進を抑制することができました。ヒトiPS疾患モデルでの解析で得た、IL-8やCTGFの発現亢進といった異常は、この難治性疾患の実際の患者さんでも認められていました。

【研究成果の意義】

胆管細胞が産生するIL-8とCTGFが、先天性肝線維症でみられる胆管形成の異常と進行性の肝線維化に重要な役割を果たすことが解明されました。 この病気は小児期に肝移植が必要となることもある難治性の病気であり、新規治療法の開発にむけた病態解明が急務とされていました。本研究で今回つきとめたIL-8とCTGFを抑制する治療を開発することが、先天性肝線維症の治療に有用である可能性を示しており、現在は肝移植以外には治療法がない難治性疾患の治療開発への応用が期待される結果です。

本研究は、ヒトiPS細胞を用いた疾患モデルを開発することで初めて、遺伝性難病の病態について詳細な分子機構が明らかにできた点で意義が高く、今後、他の難治性疾患に関する研究においても、この手法を広く応用できることが期待されます。

【用語解説】

*1先天性肝線維症 PKHD1遺伝子の異常に起因する遺伝性肝疾患である。PKHD1遺伝子がコードするFibrocystinは胆管の内腔面にある一次繊毛を構成する蛋白質の1つである。本疾患ではFibrocystinの機能異常により、胎児期の胆管形成に異常をきたし、拡張した異常な胆管が数多くみられるとともに、出生後には症例によって進行性の肝線維化が認められる。この肝線維化は、肝硬変とは異なっており、炎症細胞浸潤や肝星細胞の活性化が弱く、肝臓の門脈周囲に線維化が強くなる。重症例では小児期に肝不全に至るが、治療法は現在のところ肝移植のみであり、本邦では小児慢性特定疾患に指定されている。

*2 IL-8<インターロイキン−8>

IL-8は、白血球、線維芽細胞、内皮細胞など、生体内の様々な細胞から産生されるサイトカインで、炎症性疾患の病態にも深く関与する。先天性肝線維症におけるIL-8の関与についてはこれまで全く報告されていなかった。

*3CTGF<Connective Tissue Growth Factor>

CTGFは結合組織の増殖因子として主要な分子の一つであり、体内の臓器で広く発現する。線維芽細胞や血管内皮細胞などから分泌され、様々な臓器の線維化において重要な役割を果たすことが知られている。主にTGF-β1などのサイトカイン刺激によって産生され、コラーゲン、フィブロネクチンといった細胞外基質の産生を促進する。

*4一次繊毛

細胞表面から突出している短い毛の形状の構造物で、タンパク質のフィラメントでできているものを繊毛と呼ぶ。胆管では、1細胞あたり1本の一次繊毛が内腔側に存在し、胆管の内腔を流れる胆汁の流れや、中に含まれる物質などを検知して、シグナルを細胞内に伝達していると考えられている。他の臓器も含めて、繊毛の異常によっておこる疾患群は『繊毛病』とも呼ばれている。

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