News Release

難病「ミトコンドリア病」発症の原因を解明

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Protein Production Mechanism in Mitochondria

image: In mitochondria of normal cells, protein is synthesized by taurine binding with tRNA, and many proteins are transported from the cytoplasm to mitochondria for normal functionality. However, when taurine's activity declines, as in patients with MELAS or MERRF, protein synthesis in the mitochondria stops and the mitochondrial structure collapses. Proteins are then unable to enter the mitochondria from the cytoplasm so they break down and become aggregates that cause cell damage. When TUDCA is administered, abnormal protein accumulation is suppressed and cell function is restored. view more 

Credit: Associate Professor Wei Fan-Yan

機能性アミノ酸「タウリン」がミトコンドリアにおけるタンパク質の産生に重要であることを、日本の研究グループが明らかにしました。タウリンの機能低下がミトコンドリアのタンパク質産生を激減させ、ミトコンドリアの機能や構造が壊れることで、ミトコンドリアの周りの細胞が毒性を持ってしまうことが明らかになったのです。この機序が、難治性神経疾患「ミトコンドリア病」の誘発に大きく関与していることが世界で初めて明らかになりました。また、研究グループは、タンパク質の品質を維持することで一部のミトコンドリア病の症状を改善できることも突き止めました。

ミトコンドリアは真核生物の細胞内のエネルギー工場として知られている細胞内小器官です。ミトコンドリアには多くのタンパク質が集まっており、ミトコンドリアの様々な機能維持に働いています。これらのタンパク質は、ミトコンドリアの中で産生される13種類のタンパク質、およびミトコンドリアの外(細胞質)で産生されミトコンドリアに運ばれる数千種類のタンパク質によって構成されています。

ミトコンドリアで機能するこれらのタンパク質を設計する遺伝子に変異が生じると、ミトコンドリア病という重篤な神経疾患が発症します。この病気には未だに有効な治療薬がありません。MELASやMERRFというメジャーなタイプのミトコンドリア病を発症すると、全身の筋力低下や心臓機能の低下といった症状が見られ、発症後数年のうちに多くの方が亡くなられます。

MELASとMERRFの発症機序は不明ですが、機能性アミノ酸の1つであるタウリンが関与していることが報告されています。タウリンは一般的に栄養ドリンクに添加されていることでよく知られています。ミトコンドリアの中でタウリンがアミノ酸輸送に関わるtRNAという分子と結合していること、またMELASやMERFFの患者でタウリンの結合が低下していることがわかっています。しかし、タウリンの働きの低下がなぜこれほど重篤な病気を誘発するのかその詳細な分子機構は不明でした。

この謎を解明するたに、研究グループは、まずタウリンをtRNA分子に結合させる酵素を同定しました。次に、その酵素が働かないようにしたところ、予想通りミトコンドリアの中でタウリンがtRNAと結合できなくなりました。その結果、ミトコンドリアの中でのタンパク質の産生がほぼ停止し、ミトコンドリアで産生されるタンパク質の量が劇的に低下しました。これらの結果から、タウリンは、ミトコンドリアでのタンパク質合成に必須であることがわかりました。

ミトコンドリアの中で産生されるタンパク質は、ミトコンドリアの構造を維持する部品としても働きます。タウリンの働きが低下しているミトコンドリアを調べたところ、ミトコンドリアの膜構造が崩壊していることを見出しました。そのため、ミトコンドリアの外で産生されミトコンドリアに輸送される様々なタンパク質がミトコンドリアに局在できなくなっていました。そして、これらのタンパク質は行き場を失い、やがてタンパク質の構造が壊れて毒性の高い凝集体として細胞質に蓄積してしまうことがわかりました。このことがMELASやMERRF患者で生じる細胞障害の原因の1つであることが示唆されました。

近年、異常タンパク質凝集体の蓄積を抑制する候補化合物が開発され、その中の1つがTUDCA(ウルソデオキシコール酸)というものです。TUDCAは二次胆汁酸として体内に元々ある物質ですが、体内の存在量が非常に少ないことが知られています。タウリンの働きが低下している細胞にTUDCAを投与すると、凝集体がほとんど消失し、細胞のストレスが低下しました。タウリンの働きが低下しているミトコンドリア病モデルマウスにTUDCAを投与したところ、この疾患モデルマウスでも細胞障害が改善されました。

研究を主導した魏准教授は次のようにコメントしています。

「今回の研究は、MELASやMERRFなどタウリンの働きが低下するミトコンドリア病に対する治療薬の開発に繋がります。細胞やモデル動物で有効性が示されたTUDCAは、イタリアなどヨーロッパで肝疾患の治療薬として使用され、医薬品としての安全性が確かめられています。今後は、TUDCAがMELASやMERRFなどのミトコンドリア病の治療薬になるか臨床研究を実施することを計画しています。」

本研究成果は、科学ジャーナル「Cell Reports」に米国東部時間の1月9日掲載されました。

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[Source]

akruddin, M., Wei, F.-Y., Suzuki, T., Asano, K., Kaieda, T., Omori, A., … Tomizawa, K. (2018). Defective Mitochondrial tRNA Taurine Modification Activates Global Proteostress and Leads to Mitochondrial Disease. Cell Reports, 22(2), 482–496. doi:10.1016/j.celrep.2017.12.051


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