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報酬への期待:ADHD治療薬の脳への作用の仕組みが明らかに

脳をスキャンして、ADHDの薬が脳の報酬システムにどの

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

fMRI Machine

image: The fMRI machine located in the IDOR imaging suite. fMRI is used to indirectly detect increased neuronal activity in an area of the brain by measuring higher levels of oxygenated to deoxygenated blood. view more 

Credit: Andressa Dias Lemos, IDOR

 注意欠如多動性障害(ADHD)は多動、不注意、衝動性の行動を特徴とする神経生物学的障害です。ADHDを持つ人に対しては、メチルフェニデートという精神刺激薬がよく処方されています。しかしその薬がどのように作用するかについては完全にはまだ理解できていません。

 今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、ヒトの脳のある領域がメチルフェニデートにどのように反応するかを明らかにしました。薬の正確なメカニズムを理解することで、ADHDに対してより標的を絞った薬の開発につながることを期待し、研究が行われました。

 これまでの研究で、ADHDを持つ人々はADHDを持たない人々と比べ、報酬を待っている時と報酬を受け取る時における脳の反応が異なることが示唆されています。OISTの研究者らが提唱しているのは、ADHDの人の脳内ではドーパミンと呼ばれる快感を伝える神経伝達物質の放出が、報酬を待っている時点では少ないが、報酬を実際に受け取る時点ではドーパミンニューロンが行動の報酬に対してより過敏に反応するのではないかという仮説です。

 「ADHDの小児や若年成人は、日常生活において、良い結果がすぐに得られないような行動に取り組むことに困難を感じるかもしれません。例えば、集中して学習すればより良い成績につながりますが、学習自体は楽しくないことがあるでしょう。学業に集中することが困難な児童は、成績のような、後からの報酬よりも、クラスメートのおしゃべりや車の音など、その場にある、外部からの面白い刺激や新鮮な刺激に気を取られてしまうのです。」と、本研究の筆頭著者であり、発達神経生物学ユニット(研究代表者:ゲイル・トリップ教授)の古川絵美博士は説明します。

 メチルフェニデートはADHDの人の脳内でドーパミンの可用性に影響を与え、集中力を維持するのに役立つと考えられています。そこで古川博士らは、ドーパミンの主な放出部位で、報酬系の重要な構成要素である脳領域(腹側線条体と呼ばれる)にこの薬剤がどのように影響するかを調べました。

 「報酬の予感および実際に得られた報酬に対してメチルフェニデートが腹側線条体の反応にどのような影響をもたらすかを調べたかったのです。」と、古川博士は語ります。

 Neuropharmacology誌に発表された本研究は、ブラジルのリオデジャネイロにあるドール研究教育機関(IDOR)の研究者らと共同で行われました。これによって複数の分野にわたる専門知識を組み合わせた共同研究と、さらにIDORの機能核磁気共鳴断層装置(fMRI)施設の利用が可能となりました。

脳内を観察

 研究では、スロットマシンを真似たコンピューターゲームをしている若年成人の脳活動を、fMRIを用いてADHDを持つ人・持たない人の両方で測定しました。臨床群の被験者に対してはメチルフェニデートを服用した場合と有効成分がない偽薬(プラセボ)を服用した場合の2回に分けてスキャンを行いました。スロットマシンが回るたびに、コンピュータには「み」または「そ」の文字が表示されます(被験者はブラジル人であったため、これらの文字は抽象的な合図の刺激として使われました)。「み」 が表示されたときにはお金を獲得する確率が高く、「そ」 と表示されたときはお金が出ないことを参加者たちはスキャン開始前の練習ですぐに学びました。「み」が報酬を予測する合図、「そ」は報酬を予測しない合図として学習したわけです。

 研究者らは、ADHDを持つ人がプラセボを服用した場合、報酬予測の合図(み)の場合でも非報酬予測の合図(そ)の場合でも、腹側線条体の神経活動は類似していたことを発見しました。しかしメチルフェニデートを摂取すると、腹側線条体の活性は報酬の合図にのみ反応して上昇し、2つの合図をより容易に識別できるようになるという結果が得られました。

 また、線条体のニューロン活動が内側前頭前皮質のニューロン活動とどのように相関するかを調査しました。内側前頭前皮質は外部から情報を受け取り、線条体を含む脳の多くの部分と通信する意思決定に関与する脳領域です。

 ADHDを持つ人々が、メチルフェニデートの代わりにプラセボを服用した場合、線条体の神経活動と前頭前野皮質の活動は報酬が与えられた瞬間(スロットマシンからのお金を受け取った時)に強く相関しました。このような、ADHDを持つ人の線条体と前頭前野の活発な連携性が、外部刺激に対する感受性の高さにつながっていると研究者らは考えています。一方、メチルフェニデートを服用した場合の相関はADHDでない人と同様に低いものでした。

 この結果は、第二の神経伝達物質であるノルエピネフリンがメチルフェニデートの治療効果に関与していることを示しています。ノルエピネフリンは、前頭前野に多くあるニューロン群から放出されます。研究者らは、メチルフェニデートが前頭前野のノルエピネフリンの可用性を上昇させ、報酬が与えられた時の線条体のドーパミン放出を制御するのではないかと推測しています。

 「メチルフェニデートが報酬反応を調節するメカニズムは非常に複雑であることが明らかになりつつあります。」と古川博士はコメントしています。

ADHDの新しい治療法に向けて

 複雑な要素もありますが、メチルフェニデートの作用機序がさらなる研究によって解明され、世界中の多くの人々の役に立つ可能性があると研究者らは考えています。

 メチルフェニデートの作用を突き止めることがADHDのより優れた治療法の開発に役立つかもしれない、と古川博士は説明します。「メチルフェニデートは有効ですが、副作用があるため、服用や子どもへの投与をためらう人もいます。メカニズムのどの部分が治療効果をもたらすのかを理解できれば、よりターゲットを絞った薬を開発できるかもしれません。」

 また古川博士は、メチルフェニデートが脳にどのような影響を及ぼすかを理解することで、行動面での介入にも役立つことを期待しています。例えば、ADHDを持つ子どもが報酬を期待したり受け取ったりするときの脳の反応の違いを考慮し、親や教師はADHDを持つ子どもを頻繁に褒め、環境内で彼らの気を散らす刺激を減らすことで、注意力の持続の援助がよりうまくできるでしょう。

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