News Release

対人関係と経済は同じ脳部位で価値判断される

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

図1

image: 対人関係の価値を判断するための実験 view more 

Credit: C. 2020 Ohtsubo et al.

友人が誕生日におめでとうと言ってくれたり、困ったときに相談にのってくれたりすることは対人関係へコミットしていることを示すコミットメント・シグナル※1であり、このようなことをしてくれた相手との関係はより大事だと考えるようになることが知られています。

神戸大学大学院人文学研究科の大坪庸介教授、名古屋大学大学院情報学研究科の大平英樹教授、愛知医科大学の松永昌宏講師(および衛生学講座の研究グループ)、高知工科大学の日道俊之講師の研究グループは、このような友人からのコミットメント・シグナルに応じて、友人との関係の価値が、経済的価値全般を計算するのと同じ部位である眼窩前頭皮質で判断されていることを明らかにしました。

この研究成果は、9月25日に、Social Neuroscienceオンライン版に掲載されました。

ポイント

  • 大切な友達と言うときの「大切な」と大切な品物と言うときの「大切な」の違いについて、脳の活動状態を検証した
  • 友人のために時間を使ったり、注意を払ってあげたりすることがコミットメント・シグナルになる
  • コミットメント・シグナルを受け取ると、脳の眼窩前頭皮質が活動する
  • 眼窩前頭皮質はこれまで経済的な価値計算にかかわる部位であることが知られている
  • 関係の価値も経済価値と同じように計算されている可能性がある

研究の背景

多くの人は友人が自分のために時間を使ってくれたり、自分に注意を向けてくれたりすると嬉しく感じ、相手との関係を大事に思うようになります。このことは、相手の行動が自分にとって有益な結果とならなくても同様です。例えば、悩みを聞いてはくれたけれど、悩み自体は解決しなかったといった状況でも、相手のことを大事な友人だと思う気持ちは強くなります。このような、相手が自分との関係にコミットしていることを示唆する情報(コミットメント・シグナル)に応じて、相手との関係の価値を判断する脳部位を調べました。

研究の内容

本研究では、対人関係の価値を判断する脳部位を特定するために、fMRI※2を用いて脳機能を計測しながら、図1に示すような課題を20代の男女22人の参加者に行ってもらいました。参加者には、特定の友人とやりとりをする場面を、パターン別に計30種類、それぞれ別々に起こった出来事として想像してもらいました。

例えば、図1に示しているのは、自分の誕生日に友人と一緒に食事に行く場面です。1つの場面につき、「コストあり」「コストなし」「シグナルなし」の3種類の分岐シナリオがあり、この場面での「コストあり」では友人が誕生日を祝って食事をおごってくれ(経済的コストを伴っている)、「コストなし」では友人は「おめでとう」と祝福の気持ちを伝えてくれ(経済的コストは伴わない)、「シグナルなし」では友人は誕生日について何も言いません。このような場面が10種類、それぞれに「コストあり」、「コストなし」、「シグナルなし」の3つの分岐があり、合計30通りのシナリオになります。これらのシナリオに対して、友人の行動によって相手との関係がよくなるか悪くなるかを、0「非常に悪くなる」から100「非常によくなる」で評定してもらうことをくり返しました。

実験の結果、眼窩前頭皮質という部位が強く活動していることがわかりました(図2・A)。眼窩前頭皮質は「コストあり」シナリオで最も強く活動し、「シグナルなし」では最も活動が弱まりました(統計的に有意差があったのは、この2つのシナリオ間だけです)(図2・B)。

眼窩前頭皮質は経済的価値の計算などをすることが知られています。例えば、空腹の実験参加者に、さまざまなお菓子について、後でそれらを実際に購入して食べることができるという条件で、どれくらいなら支払ってもよいかを判断させる実験でも活動していました。この実験では、参加者の脳はお菓子の価値づけをしています。

今回の成果により、友人からのコミットメント・シグナルを受け取ると、脳はお菓子を用いた実験と同じように自動的に相手との関係の価値を判断して、関係価値の更新をしている可能性が示されました。

今後の展開

今回の実験では、孤独感が高い人ほど眼窩前頭皮質の活動が弱い可能性が示されました。孤独感の測定は実験前に質問用紙に回答してもらい調査しました。今後はより多くの実験を重ねることにより孤独感が高い人は、友人からのコミットメント・シグナルへの感受性が弱いために孤独を感じやすいのか、あるいは孤独感が高まるとそのような情報をシャットアウトするようになるのか、孤独感と眼窩前頭皮質の活動の関係を確認するとともに、なぜ孤独感がコミットメント・シグナルへの感受性に関係しているのか等を明らかにしていく必要があります。これらの研究が進展することで、よりよい対人関係を構築するためのメカニズムの解明が期待されます。

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用語解説

※1 コミットメント・シグナル 対人関係などにおいて、相手との関係にコミットしていることを示す手がかりになるもの。例えば、相手のために時間を使う、注意を向けるといったことは、関心のない相手には行わない。そのため、友人が自分のために時間を使ってくれた、注意を向けてくれたなどの事実から、受け手には友人が自分との関係にコミットしてくれていることがわかる。この時、友人側は意識的にそのことを伝えようとしている必要はなく、行動を通じて、相手に関係のコミットメントの程度が伝わるためにシグナルと呼ばれている。

※2 fMRI(functional magnetic resonance imaging)

MRIを利用して、生物の脳や脊髄などの血流動態反応を画像化し、脳機能計測を行う技法。

謝辞

科学研究費補助金 15H03447

論文情報 タイトル

“Role of the orbitofrontal cortex in the computation of relationship value” DOI:10.1080/17470919.2020.1828164

著者
Yohsuke Ohtsubo, Masahiro Matsunaga, Toshiyuki Himichi, Kohta Suzuki, Eiji Shibata, Reiko Hori, Tomohiro Umemura & Hideki Ohira

掲載誌
Social Neuroscience


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