分子を発現するもとになる腫瘍に放射線をあて、さらにその分子を薬物を封入したナノ粒子で攻撃する。これが新たな研究におけるマウスの転移腫瘍に対するより効果的な化学療法薬の送達方法である。現在のナノ医薬は転移腫瘍への到達が血管障壁によって妨げられることが多いが、放射線ガイド下ナノ粒子は、血管障壁を透過するための新しい方法となる可能性があると研究者らは述べている。血流中の癌細胞は、離れた臓器に広がるため、血管壁中でP-セレクチンとして知られる接着分子に結合している。Yosi Shamayらは、正常組織と異なり、ヒトの癌の多く(肺癌、卵巣癌、乳癌、肺癌など)は腫瘍細胞と周囲の血管でP-セレクチンを過剰発現していることを発見した。Shamayらはこの分子を治療標的として利用するため、フコイダン(天然にP-セレクチンに結合する海藻由来の物質)から成るナノ粒子薬物担体をデザインした。肺癌、転移性メラノーマ、および乳癌(全てP-セレクチンを発現している)のマウスモデルで、このナノ粒子は化学療法薬を選択的に腫瘍に送達し、薬物や薬物を封入したフコイダン製のナノ粒子を使用しなかった場合に比べて腫瘍の縮小と全生存を改善した。Shamayらは、通常P-セレクチンを発現していない腫瘍に対しては、ナノ粒子を腫瘍部位へと導くため、P-セレクチンの発現を増強することが知られている放射線を利用した。放射線と組み合わせると、ナノ療法は、P-セレクチンを発現していないマウスの肺腫瘍を効率的に縮小させた。関連したFocusで、Ranit KedmiとDan Peerが、ナノ療法の臨床応用の有望性と課題について議論する。放射線ガイド下ナノ粒子は、ほぼ全ての腫瘍に薬物を送達する新しいツールとなる可能性があるが、意図せず癌の広がりを促進してしまう可能性があるP-セレクチン発現を誘導する両刃の剣である放射線に対処するため、今後の開発を行う必要がある。
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Journal
Science Translational Medicine