News Release

遺伝子治療の効率を安全かつ大幅に高める 肝内毛細血管コーティング剤の開発

肝類洞における遺伝子治療薬クリアランスの制御

Peer-Reviewed Publication

Innovation Center of NanoMedicine

公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(センター長:片岡一則、所在地:川崎市川崎区、略称:iCONM)は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長:平野俊夫、所在地:千葉県千葉市、略称:QST)の長田健介博士および東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の内田智士博士との共同研究により、世界で初めて、肝類洞壁の表面を選択的かつ一過性に覆う物質を開発し、遺伝子治療薬のクリアランスを制御することに成功しました。本研究内容は、アメリカ科学振興協会 (AAAS) が発行する Science Advances誌に米国東海岸時6月26日午後2時(日本時間:27日午前3時)に掲載される予定です。

A. Dirisala, S. Uchida, K. Toh, J. Li, S. Osawa, T. A. Tockary, X. Liu, S. Abbasi, K. Hayashi, Y. Mochida, S. Fukushima, H. Kinoh, K. Osada, Kazunori Kataoka, "Transient stealth coating of liver sinusoidal wall by anchoring two-armed PEG for retargeting nanomedicines"

近年、欧米及び日本において、遺伝子治療が次々と認可され、がん、慢性疾患、遺伝病への応用が期待されています。一方で、生体に投与した遺伝子治療薬は、速やかに肝臓にて代謝され消失してしまうため、十分量が標的臓器へ到達しないことが課題となっております。この肝臓からの消失は、肝内毛細血管である肝類洞の血管壁への遺伝子治療薬の吸着が原因となるため、肝類洞壁を生体適合性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)でコーティングすることを着想しました。ここで、長時間コーティングすると肝臓の生理的機能が損なわれる懸念があり、コーティングは一過的である必要があります。また、全身の血管がコーティングされると副作用の原因となるだけでなく、標的臓器への遺伝子治療薬の送達が障害されてしまうため、コーティングは肝類洞に選択性を持つ必要があります。我々は、今回、肝類洞壁に吸着する正に帯電したオリゴリシンに、2本のPEG鎖を結合したコーティング剤を開発することで、一過的かつ選択的な肝類洞壁のコーティングに世界で初めて成功しました。興味深いことに、この2本PEG鎖からなるコーティング剤は、類洞内皮に結合した後、6時間以内に胆汁へと排泄された一方で、1本のPEG鎖をオリゴリシンに結合したコーティング剤は、類洞壁に長時間留まってしまいました。このように、一過的なコーティングを実現するためには、精密分子設計が必要でした。

続いて、このコーティング剤を、遺伝子治療薬の送達に用いました。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ウイルス性遺伝子治療薬として汎用されておりますが、その8型(AAV8)は、心筋、骨格筋を標的としています。予め肝類洞壁をコーティングしたのちにAAV8を投与すると、AAV8の肝臓への移行が抑制され、結果的に、心筋、骨格筋への遺伝子導入効率が、2〜4倍向上しました。今後、筋ジストロフィー治療等への応用が期待されます。また、ウイルスを用いない遺伝子治療も安全性や経済的コストの観点から期待されており、我々は10年以上にわたりプラスミドDNA搭載スマートナノマシンを用いた悪性腫瘍の遺伝子治療に取り組んでまいりました。そこで、このシステムにコーティング剤を用いたところ、ナノマシンの肝類洞壁への吸着が抑制され、結果的に大腸がんへのDNA導入効率が10倍程度向上しました。以上のように、今回開発したコーティング剤を用いることで、安全性を担保しながら、遺伝子治療薬の活性を飛躍的に高めることに成功しました。

以上の知見を、考察としてまとめると以下の様になります。

  • 2本のPEG鎖からなるコーティング剤は、肝類洞壁を数時間コーティングし、その後、胆汁排泄された。
  • 1本のPEG鎖からなるものは、胆汁排泄されず、9時間以上にわたって肝類洞壁をコーティングしたため、安全面での懸念がある。
  • 2本鎖PEGコーティング剤は、肝類洞壁に選択性を持ち、結合組織の血管はコーティングしなかった。
  • コーティング剤は、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた心筋、骨格筋への遺伝子導入効率を2〜4倍、DNA搭載スマートナノマシンを用いた大腸がんへの遺伝子導入効率を10倍向上させた。
  • 結果的に、遺伝子治療薬の効果が高まるだけでなく、投与量を減らすことが可能となり、医療費の削減および有害事象の低減に結びつくことが期待できる。

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ナノ医療イノベーションセンターについて

ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、キングスカイフロントにおけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、川崎市の依頼により、公益財団法人川崎市産業振興財団が、事業者兼提案者として国の施策を活用し、平成27年4月より運営を開始しました。有機合成・微細加工から前臨床試験までの研究開発を一気通貫で行うことが可能な最先端の設備と 実験機器を備え、産学官・医工連携によるオープンイノベーションを推進することを目的に設計された、世界でも類を見ない非常にユニークな研究施設です。  

https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構について

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 (QST) は、量子科学技術を一体的、総合的に推進するため、放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の量子ビーム部門と核融合部門が再編統合され、平成28年4月1日に新たに発足した国立研究開発法人です。重粒子線などによるがんの治療や、放射線の人体への影響や医学利用、放射線防護や被ばく医療などの研究、量子ビームによる物質・材料科学、生命科学等の先端研究開発、高強度レーザーなどを利用した光量子科学研究、国際協定に基づくITER計画及び幅広いアプローチ(BA)活動を中心とした人類究極のエネルギー源である核融合の研究などを実施しています。  

https://www.qst.go.jp/

東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻について

バイオエンジニアリング専攻は、少子高齢化が進み、持続的発展を希求する社会において、人類の健康と福祉の増進に貢献することを目指します。本専攻では、この目的を達成するために、既存の工学及び生命科学ディシプリンの境界領域にあって両者を有機的につなぐ融合学問分野であるバイオエンジニアリングの教育・研究を推進します。バイオエンジニアリングの特徴は、物質・システムと生体との相互作用を理解・解明して学理を打ち立てるとともに、その理論に基づいて相互作用を制御する基盤技術を構築することにあります。生体との相互作用を自在に制御することで、物質やシステムは人間にとって飛躍的に有益で優しいものに変身し、革新的な医用技術が生まれることが期待されます。このようなバイオエンジニアリングの教育・研究を通じて、バイオメディカル産業を先導し支える人材を輩出するとともに、予防・診断・治療が一体化した未来型医療システムの創成に貢献することを目指します。  

http://www.bioeng.t.u-tokyo.ac.jp/


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