News Release

腎臓の元となる細胞を増やすことに成功

腎臓の再生医療に向け前進

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Reconstituted Nephron Structures

image: This image shows a reconstitution of nephron structures by propagated nephron progenitors derived from human iPS cells. Yellow arrowheads: glomeruli, Black arrowheads: renal tubules. Scale bar: 20 µm. view more 

Credit: Prof. Ryuichi Nishinakamura (http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.03.076)

  • マウスの腎臓前駆細胞※1を試験管内で増やすことに成功した。

  • 腎臓前駆細胞の生存期間を生体内に比べ2倍、細胞数を100倍に増幅し、増えた腎臓前駆細胞が腎臓の重要な組織である糸球体と尿細管を形成した。

  • 糸球体と尿細管の両方を作る能力を維持したまま腎臓前駆細胞を増やす培養法の報告は世界初。

  • 同様の培養法でヒトiPS細胞※2から作成した腎臓前駆細胞を、腎臓組織を作る能力を保ったまま増やすことに成功した。

  • 人為的に大量に作成した腎臓細胞の移植や、腎臓組織を体内で再構築させる研究に発展することが期待できる。

[要旨]                                 

熊本大学発生医学研究所の研究グループ(谷川俊祐助教、西中村隆一教授ら)は、マウス胎仔由来およびヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞を試験管内で増やす方法を開発しました。

尿の産生や血圧の調節など生命の維持に必須の器官である腎臓は一度機能を失うと再生しません。胎児期には尿を産生する重要な組織であるネフロン(糸球体※3と尿細管)が腎臓前駆細胞から作り出されます。しかし、その細胞は腎臓が出来上がる出生前後に消失してしまうため、そのことが腎臓が再生しない理由の一つとされています。一方、2013年末に西中村教授らの研究グループはヒトiPS細胞から腎臓前駆細胞を誘導する方法を報告しました。しかし、これを再生医療へ応用するには、腎臓組織を作る能力を保ちながら前駆細胞を大量に増やす必要があります。

 今回、谷川俊祐助教らは、LIF※4、WNT、FGF及びBMPといった腎臓が作られる際に必要な液性因子を敢えて低い濃度で培養液に加えることによって、マウスの胎仔から単離した腎臓前駆細胞を約20日間培養し、100倍に増やすことに成功しました。増えた細胞は糸球体と尿細管を形成する能力を維持しており、腎臓発生に重要な遺伝子群も保たれていました。ヒトiPS細胞から作成した腎臓前駆細胞をこの方法で培養したところ約1週間維持され細胞数も増加しました。増えた細胞は、糸球体と尿細管を形成する能力を保っていました。

本研究は、出生前後には消失する腎臓前駆細胞を、細胞外からの刺激によりネフロンを作る能力を保持しながらより長期に増幅させることを可能にしたものです。この方法を基に、人為的に大量に作成した腎臓細胞の移植や、腎臓組織を体内で再構築させる研究への発展が期待されます。

 本研究成果は、科学雑誌「Cell Reports」オンライン版に4月14日 12:00 PM(アメリカ東部時間)【日本時間の4月15日 2:00 AM】に掲載されます。

※本研究は、米国NCI/NIHのグループとの共同研究です。文部科学省科学研究費補助金、博士課程教育リーディングプログラム(HIGOプログラム)の支援を受けました。

[研究の背景]

腎臓は一度機能を失うと再生しません。透析患者数は増加を辿り画期的な代替法の誕生が待たれています。 腎臓は血液をろ過して尿を産生するネフロン、尿を排出する尿管とそれらの組織の隙間を埋める間質という細胞から構成されています(図1)。それらは異なる前駆細胞から作られ、腎臓の再構築にはそれぞれの前駆細胞を誘導する必要があります。その中で特に重要なネフロンを作る前駆細胞をヒトiPS細胞から誘導する方法が西中村教授らの研究グループによって報告されました。しかし、再生医療への応用には腎臓を作り上げる大量の前駆細胞が必要です。これまでに腎臓前駆細胞を人為的に培養して増やす方法の確立が試みられてきましたが、マウスでも生体内において胎生11.5日目から生後数日までの約10日間で消失してしまい、人為的に培養できるのは2-3日程度と限界がありました。そこで今回は、腎臓前駆細胞が緑色に光るマウスから腎臓前駆細胞を単離し、最適な培養条件を検索することで培養法の確立を目的としました。

[研究の内容]               

腎臓の主要器官であるネフロンは、腎臓前駆細胞が維持されながら分化することによって作られます。これまでの腎臓発生の研究によってWNT、FGF及びBMPといった液性因子がそれぞれ腎臓前駆細胞の維持や増殖、または分化に作用することが分かっていました。そこで谷川俊祐助教らは腎臓前駆細胞が緑に光るマウスから細胞を単離し、細胞が緑色に光りながら増える培養条件を検討しました。その結果、WNT、FGF及びBMPにLIFを加えることが腎臓前駆細胞の維持に重要であることを見出し、さらに敢えて低い濃度で投与することで腎臓前駆細胞を約20日間で約1,800倍に増幅しました。増幅した腎臓前駆細胞は糸球体と尿細管を作る能力を保持していました(図2)。生体内では約10日間で消失してしまう腎臓前駆細胞を、この培養法では期間において2倍長く維持し、数において100倍増えたことになります。この培養方法をヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞に適用したところ、8日間で4倍に増幅し、糸球体と尿細管を形成しました(図3)。よって、液性因子を最適な濃度で組み合わせることにより、ネフロンに分化する能力を維持したまま腎臓前駆細胞を生体内での生存期間を超えてより長い時間増やせること(寿命を延長すること)が可能になりました。最近、米国の研究グループにより、腎臓前駆細胞を約一週間培養したという報告があります。しかし、その条件で培養した腎臓前駆細胞からは、尿細管の形成は認められましたが糸球体は確認されていません。よって、糸球体と尿細管の両方を作る能力を維持したまま腎臓前駆細胞を増幅する培養法の報告はこれが世界で初めてです。 

[今後の展開]            

再生医療には臓器を構成するために大量の細胞数が必要です。今回の成果は腎臓前駆細胞を人為的に増幅するもので腎疾患の病態解明、創薬及び細胞治療など大量に細胞を必要とする再生医療に向けた大きな前進です。さらに、増幅させた腎臓前駆細胞の凍結保存が可能となれば、iPS細胞から腎臓前駆細胞を誘導する14日間の時間を省略でき、研究材料として供給できるようになります(図4)。  しかし、ヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞の維持期間はまだ1週間程度で、マウスの腎臓前駆細胞に比べて不十分です。今後、培養条件の改善を重ね更なる培養期間の延長と細胞数の増幅が必要です。とはいえネフロンの糸球体と尿細管の両方を作る能力を維持したまま腎臓前駆細胞を増やす方法が初めて確立されたため、今後、この培養法が再生医療に向けた研究に応用されることが期待されます。

[用語解説]      

1 腎臓前駆細胞:腎臓において尿を産生するネフロン(糸球体と尿細管)という組織を作り出す細胞。尿を流す尿管や腎臓組織の隙間を埋める間質の前駆細胞は別に存在する。

※2 iPS細胞:皮膚や血液などの体細胞から作られた万能細胞

※3 糸球体:腎臓内で血液から尿をろ過する部位

※4 LIF:ES細胞の培養に必須の液性因子。一部のiPS細胞の培養にも用いられている。                                                            


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