News Release

発がん遺伝子c-Mycの発現量に応じて最適な薬剤放出パターンを選択できる機能性ナノミセルの開発に成功

Peer-Reviewed Publication

Innovation Center of NanoMedicine

Fig. 1: ナノミセルのブロックポリマーに用いるリンカーの違いに基づく薬剤放出パターンの違い

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FR-JQ1: 脂肪族アルデヒドのリンカーを使用。
酸性下で薬剤放出が迅速。

SR-JQ1: 芳香族アルデヒドのリンカーを使用。
酸性下で薬剤放出がマイルド。

腫瘍組織内の pH 変化に応じた、FR-JQ1
および SR-JQ1 の薬剤溶出パターン

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Credit: 2021 Innovation Center of NanoMedicine

公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(センター長:片岡一則、所在地:川崎市川崎区、略称:iCONM)は、東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学(教授:山岨達也 先生)松本 有講師の研究グループおよび同学工学系研究科バイオエンジニアリング専攻(専攻長:三宅亮 先生)オラシオ・カブラル准教授の研究グループとの共同研究により、がんの発生原因のひとつとして考えられている c-Myc 転写因子の細胞内産生量に応じて抗がん剤を放出する高分子ナノミセルの開発に成功したことを、ACS Nano(インパクトファクター:14.588 in 2019)で発表致しました。

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.1c00364

c-Myc は、がん細胞の増殖や血管新生に関わるのみならず、細胞周期を変化させ正常な細胞分化を抑制するほか、がんの転移を促進することが知られています。細胞増殖に関連する多くの遺伝子を調節する代表的ながん原遺伝子 (proto-oncogene) であり、バーキットリンパ腫における染色体転座など多くのがんの発生に関わることが知られています。そのため、この転写因子を標的とした抗がん剤は、幹細胞を直接攻撃できるものとして、その創薬研究が世界中で行われています。しかしながら、c-Myc を人工的に消失させたマウス(ノックアウトマウス)では胎生致死(妊娠中の死亡)が起きることなどから、c-Mycは正常細胞にも必須の物質であると考えられており、その阻害剤の開発には、がん組織への選択的送達が重要な鍵を握っています。また、c-Myc はiPS細胞の初期誘導に必要な因子としても知られ、将来的には iPS細胞由来のがん化抑制にも使える技術としての応用も期待できます。

本論文では、代表的な間接的c-Myc阻害剤である JQ1を機能性ナノミセルに搭載させ、その有効性を調べました。JQ1は、BRD4と呼ばれる c-Myc の発現を司るRNAポリメラーゼIIの活性化に関与するブロモドメインタンパクに結合して、その作用を強力に阻害します。その結果RNAポリメラーゼの活性が弱まることでc-Myc の産生量が低下します。JQ1は、その強い遺伝子発現抑制作用からエピゲノム創薬の星として期待されたものの、投与後速やかに腎排泄されて消失するため生体内半減期が極めて短く、また、ほとんど水に溶けないため、その製剤化がひとつの課題でした。ナノ医療イノベーションセンターでこれまでに開発してきた抗腫瘍高分子ナノミセルは、内含薬剤の①安定化、②排出抑制、③EPR効果(がん組織への選択的薬物送達)、④腫瘍アシドーシスに基づく組織選択的薬剤放出の4作用に特長があり、今回、JQ1搭載ナノミセルを使って、舌がん、悪性黒色腫(メラノーマ)および膵臓がんを移植したマウスで良好な抗腫瘍活性を確認しましたのでプレス発表させて頂きます。

JQ1を内含したナノミセルは、静脈内に投与されるとEPR効果により腫瘍組織内に漏出します。腫瘍組織は解糖系が亢進されているため乳酸が多く存在し、正常組織に比べて酸性となっています。ポリエチレングリコールとポリアミノ酸からなる親水性ポリマーと疎水性のJQ1を 3-アミノプロピオンアルデヒド(脂肪族アルデヒド)のリンカーにより繋いだものとパラアミノメチルベンズアルデヒド(芳香族アルデヒド)をリンカーとして繋いだものの2種類の両親媒性ブロックポリマーを合成し、ナノミセルの基材としました(図1)。それを水中で自己会合させミセル化させ担がんマウスに投与すると図2に示す抗腫瘍活性が得られました。リンカーを脂肪族アルデヒドにした場合と、芳香族アルデヒドにした場合で、酸性度に応じた薬剤の放出パターンが大きく異なり、前者では速やかに、後者では穏やかに薬剤が放出されます。それゆえ、前者のナノ医薬品を FR-JQ1、後者を SR-JQ1 と命名しました。両者の抗腫瘍活性は、c-Myc の発現量に応じて大きく異なり、c-Myc が高発現している腫瘍に対しては FR-JQ1が、発現が低い場合は SR-JQ1 の方が有効であることがわかりました。

今後、バイオマーカーの程度に応じたナノ医薬品の選択は個別化医療、更には体内病院の実現に向けて重要なステップになると考えています。

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 公益財団法人川崎市産業振興財団について

 産業の空洞化と需要構造の変化に対処する目的で、川崎市の100%出捐により昭和63年に設立されました。市場開拓、研究開発型企業への脱皮、それを支える技術力の養成、人材の育成、市場ニーズの把握等をより高次に実現するため、川崎市産業振興会館の機能を活用し、地域産業情報の交流促進、研究開発機構の創設による技術の高度化と企業交流、研修会等による創造性豊かな人材の育成、展示事業による販路拡大等の事業を推進し、地域経済の活性化に寄与しています。

https://www.kawasaki-net.ne.jp/

 ナノ医療イノベーションセンターについて

 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、キングスカイフロントにおけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、川崎市の依頼により、公益財団法人川崎市産業振興財団が、事業者兼提案者として国の施策を活用し、平成27年4月より運営を開始しました。有機合成・微細加工から前臨床試験までの研究開発を一気通貫で行うことが可能な最先端の設備と 実験機器を備え、産学官・医工連携によるオープンイノベーションを推進することを目的に設計された、世界でも類を見ない非常にユニークな研究施設です。  

https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

センター・オブ・イノベーション (COI) プログラムについて

 COIプログラムは、文部科学省・科学技術振興機構の下で進められている研究開発プログラムで、将来社会に潜在する課題から、現在取り組むべき異分野融合・連携型の研究開発テーマをバックキャストして設定しています。企業や大学だけでは実現できないイノベーションを産学連携で実現する拠点が全国に18か所設立されました。川崎拠点は、その中で唯一、大学でなく地方自治体が管理するCOI拠点であり、そこで実施する研究プロジェクトを、COINS (Center of Open Innovation Network for Smart Health) と呼んでいます。

 COI: https://www.jst.go.jp/coi/

COINS : https://coins.kawasaki-net.ne.jp/

2021年2月18日


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