News Release

ウイルスの感染力を高め、日本人に高頻度な細胞性免疫応答から免れるSARS-CoV-2 変異の発見

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

SARS-CoV-2 spike Y453F & L452R variants

image: SARS-CoV-2 Y453F and L452R variants contribute to evasion from cellular immunity and the L452R variant also increases viral infectivity. view more 

Credit: Dr. Chihiro Motozono

熊本大学、東京大学等の研究グループは、新型コロナウイルスの2つの変異株「カリフォルニア株」と「インド株」に共通する「L452R変異」が、ヒト白血球抗原の一種HLA-A24を介した細胞性免疫からの逃避に関わることを明らかにしました。HLA-A24は、約60%の日本人が持っています。また、L452R変異は、ウイルスの感染力を増強する効果もあることを明らかにしました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2021年6月現在、全世界において1億5千万人以上が感染し、350万人以上を死に至らしめている、現在進行形の災厄です。現在、世界中でワクチン接種が進んでいますが、2019年末に突如出現したこのウイルスについては不明な点が多く、感染病態の原理やウイルスの複製原理、免疫逃避と流行動態の関連についてはほとんど明らかになっていません。

ヒトの免疫、特に獲得免疫は、「液性免疫(中和抗体)」と「細胞性免疫」に大別されます。イギリス株やブラジル株などの新型コロナウイルスの「懸念すべき変異株 �Variants of concern"」が、液性免疫(中和抗体)から逃避する可能性については世界中で研究が進んでいますが、細胞性免疫からの逃避の可能性については報告がありませんでした。

そこで、研究グループは、まず、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部が、「HLA-A24」という、日本人に多く見られる型の細胞性免疫によってきわめて強く認識されることを、免疫学実験によって実証しました。次に、75万配列以上の新型コロナウイルスコロナウイルス流行株の大規模な配列解析を行い、スパイクタンパク質のHLA-A24で認識される部位に、いくつかの重要な変異があることを見出しました。昨年デンマークで流行したB.1.1.298系統で見つかったY453Fと、現在世界中で流行拡大しているB.1.617系統(通称「インド株」)とB.1.427/429系統(通称「カリフォルニア株」)の、L452R変異というアミノ酸変異です。更に免疫学実験により、これらの変異はいずれも、HLA-A24による細胞性免疫から逃避することを実証しました。これは、「懸念すべき変異株」が、細胞性免疫から逃避することを実証した世界で初めての成果です。

本研究で見出したY453F変異とL452R変異はどちらも、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の中でも、新型コロナウイルスの感染受容体に結合するモチーフの中の変異でした。そこで次に、これらの変異が、ウイルスの感染と複製効率に与える影響を、ウイルス学実験で検討しました。その結果、L452R変異は、ウイルスの膜融合活性を高め、感染力を増強させることを明らかにしました。

免疫パートの研究を主導した本園千尋博士は次のようにコメントしています。 「L452R変異は、現在世界中で流行拡大しているデルタ株に特徴的な変異です。また、L452R変異による免疫逃避に関わる、細胞性免疫を担うHLA-A24というタイプの白血球抗原は、世界でも頻度が高く、約60%の日本人が持っています。L452R変異は、HLA-A24による細胞免疫から逃避するだけでなく、ウイルスの感染力を増強しうる変異であることから、我々は引き続き、変異株に対するヒト免疫応答ならびに免疫逃避やウイルスの感染性増強に関連する変異の研究をリアルタイムに進めています。

本研究成果は、科学誌「Cell Host & Microbe」に令和3年6月14日に掲載されました。

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Source: Motozono, C., Toyoda, M., Zahradnik, J., Saito, A., Nasser, H., Tan, T. S., ... Sato, K. (2021). SARS-CoV-2 spike L452R variant evades cellular immunity and increases infectivity. Cell Host & Microbe. doi:10.1016/j.chom.2021.06.006


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