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セントヘレンズ山の地下での結晶の動きが、1980年の噴火を予測し得たかもしれない

Peer-Reviewed Publication

Goldschmidt Conference

セントへレンズ火山の1980年噴火の前に、地下に蓄積されていたマグマ中の結晶がどのように挙動していたのかを調べた結果、結晶の動きが噴火の前兆と関わっていた可能性が明らかになった。研究者たちは、すべての火山に応用できる手法ではないものの、よく研究された他の火山の噴火の前兆をとらえることに使えるかもしれない、と考えている。

ワシントン州のセントへレンズ火山の1980年5月18日の噴火は、米国本土においては過去100年間で最も大規模な噴火であった。噴煙は80,000フィート(24キロ)の高度まで到達し、 11の州にわたって降灰した。また噴火の直接の影響で、57人が死亡した。それ以来、科学者たちは噴火がどのように引き起こされたのかを調べるようになり、セントヘレンズ山は世界で最も研究されている火山の一つとなった。今回、マグマ中の結晶の動きを研究している国際的な研究者のグループが、セントヘレンズ山や、おそらくその他の火山においても、将来の噴火活動の前兆として見られる可能性がある現象を見出した、と発表した。この研究結果は横浜でのゴールドシュミット地球化学会議で発表されることになっている。

筆頭研究者のジョン・ブランディ(ブリストル大学)の談話:

「私たちは、セントへレンズ山の1980年の噴火に向けた準備期に、地下に蓄積されていたマグマ中において長石の結晶がどのように成長して動いていたのかを示す記録に着目しました。火山岩に含まれる結晶は、同心円状に成長して縞模様を作るため、樹木の年輪のような構造をしています。それぞれの縞は髪の毛数本分ほどの厚みしかありませんが、その化学組成は噴火前の地下のマグマ内で結晶が成長していた時の環境を反映します。言い換えれば、この化学組成を調べることによって、その縞がどこで成長したのか、そして成長時の温度と圧力はどの程度だったのかがわかるわけです。 もし結晶中の同心円状の縞模様に記録された情報を読み取ることが出来れば、いつどこでマグマが動いたのかがわかるわけです。地下数キロメートルで急激なマグマの上昇があれば、かなりの確率で何か重要なことが起こりつつあると考えることができると思います。私たちの研究では、結晶の化学組成と結晶が経た履歴とを結びつける手法を見つけました。」

この研究により、噴火直前の3年間に、セントへレンズ山の地下12キロメートルから4キロメートルの深さまで結晶を運ぶような、マグマの上昇が起きていたことがわかった。

ブランデイ教授は「これは、噴火の数ヶ月前から数年前に、火山の直下のマグマが不安定な状態になっていたことを示しています」と話している。「我々のやっている研究はリアルタイムの情報解読ではなく、前回の噴火の前に何が起こっていたのかを過去にさかのぼって考察した研究です。セントへレンズ山においても、またその他の多くの火山においても、今回1980年噴火で確認されたのと同様のマグマの動きが、将来の噴火の前に起こるのではないかと考えられます。」

研究者たちは今後もセントへレンズ山の調査を続ける予定だが、これからはさらに、Uturuncu (ボリビア)、ピナツボ(フィリピン) 、そしてBezymianny(ロシア)等のよく研究されてきた火山においても、長石の結晶に記録された情報の解読を始めたい意向である。ジョン・ブランデイ氏によると、

「火山の噴火時期は、たった一つの指標だけで予測できるものではおそらくないでしょう。我々の発見したマグマの不安定化と地殻の浅部への上昇というのは、重要な指標のひとつとなり得るかもしれません。この指標は、ひとつの火山を何年にも渡って継続的に調査することが出来る場合に、特に有効な指標となるかもしれません。」

ゲオルグ・ツェルマー准教授(ニュージーランド・マセイ大学)の談話:

「結晶が記録している化学組成の変化は、活火山や休火山の地下におけるマグマの挙動を理解する上で重要な手がかりとして使われるようになっています。そして結晶が経た圧力・温度・時間の履歴をより高い精度で解読することが、現在の火山学での重要な課題となっています。今回の研究成果をリアルタイムでの火山災害の軽減につなげるためには、結晶から解読されたマグマの挙動と火山の地球物理的な観測データとを結びつけてゆくことが、次のステップとして重要になるでしょう。」

問い合わせ先 :

Professor John Blundy jon.blundy@bris.ac.uk

Professor Georg Zellmer G.F.Zellmer@massey.ac.nz

Goldschmidt Press Officer(日本語対応可): press@goldschmidt.info

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